2024年4月25日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年5月10日

合衆国憲法の危機

 これに対して、議会民主党はトランプ大統領の司法妨害に対する追及の手を緩めていません。その結果、同大統領と議会民主党の対立はエスカレートしています。

 下院司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長(民主党・ニューヨーク州第10選挙区選出)は、米議会に黒塗りのない完全な捜査報告書を提出するようにバー司法長官に強く要求しました。しかし、トランプ大統領は大統領特権を発動して阻止する意向を示しています。

 下院監視・改革委員会に所属するジェリー・コノリー議員(民主党・バージニア州第11選挙区選出)は、米公共放送(NPR)とのインタビューで、トランプ大統領の言動は権力のチェックとバランスを掲げた「合衆国憲法の危機」を招いていると指摘しました。トランプ政権は、行政監視義務がある米議会が出した召喚状を公然と無視しているというのです。

 さらに、コノリー議員はリチャード・ニクソン元米大統領とトランプ大統領を比較し、「ウォーターゲート事件の捜査ではニクソン大統領は閣僚やホワイトハウスのスタッフが宣誓して議会証言を行うことを許可した」と説明しました。そのうえで、「召喚状に応じない個人は議会侮辱罪に問われるだとう」と警告を発しました。

バーvs.モラー

 トランプ政権と議会民主党の対立激化に加えて、バー司法長官とモラー特別検察官の意見の不一致も顕著になってきました。

 トランプ大統領の司法妨害を認定しなかったバー司法長官に対して、モラー特別検察官が不満の書簡を送っていたことが明らかになりました。モラー報告書は共謀と司法妨害の2巻から構成されています。モラー氏は、書簡の中で捜査チームがバー氏に提出した各巻の序文及び要約を公開するように求めました。モラー氏は米国民が報告書の要約を精読すれば、バー司法長官と同じ結論には至らないと確信しているのでしょう。

 では、米国民はバー・モラー両氏の対立をどのように捉えているのでしょうか。

 米NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙の共同世論調査(2019年4月28日-5月1日実施)によれば、18%がバー司法長官を肯定的、25%が否定的に捉えており、7ポイント否定派が上回っています。一方、モラー特別検察官に対しては31%が肯定的、19%が否定的にみており、肯定派が否定派を12ポイントもリードしています。

 米公共放送、公共テレビ(PBS)及びマリスト大学(ニューヨーク州)による共同世論調査(同年4月24-29日実施)では、バー司法長官の仕事に対する支持は38%であるのに対して、54%がモラー特別検察官の捜査を支持しています。

 従って、両氏の対立はモラー氏に軍配が上がっているといえます。ただ、トランプ大統領が最も重視している米中西部ではモラー氏の支持率が下がり、バー氏のそれが上がっている点にも注目です。

 ちなみに、モラー報告書公開後のトランプ大統領に対する米国民の評価も紹介しましょう。世論調査で定評のある米クイニピアック大学(コネチカット州)の調査によれば、57%が同大統領が「犯罪を犯した」、54%が「司法妨害を試みた」と回答しています。米ABCニュースとワシントン・ポスト紙の共同世論調査(同年4月22-25日実施)では、「トランプ大統領はモラー特別検察官の捜査に対して真実を語ったか、うそをついたか」という質問に関して58%が「うそをついた」と答えています。

 つまり、米国民の過半数がトランプ氏を「犯罪を犯した」「司法妨害を試みた」「うそをついた」大統領と捉えているのです。


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