2024年12月14日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年5月2日

 今回のテーマは「バイデン出馬とトランプ弾劾」です。ジョー・バイデン前副大統領が4月25日、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて2020年米大統領選挙出馬を表明しました。民主党候補はバイデン氏を含めて計20名になりました。

(REUTERS/AFLO)

 中道穏健派のバイデン氏は、36年間にわたり米上院議員を務め、その間上院司法委員会及び外交委員会の委員長を経験しました。オバマ政権では副大統領として8年間、政権の重要政策に関与しました。1988年と2008年に大統領選挙に出馬しましたが、指名争いの途中で撤退に追い込まれました。今回は3回目の挑戦になります。

 本稿では、まずバイデン前副大統領出馬のビデオメッセージを読み解き、次になぜバラク・オバマ前大統領が即座に支持表明をしないのか、その理由について述べます。そのうえで、民主党候補の間で論争を呼んでいる「トランプ弾劾手続き開始」の是非について、バイデン氏がどのような立場をとるのか分析します。

なぜシャーロッツビルなのか?

 バイデン前副大統領は3分30秒のビデオの中で、1つの争点に絞り、名指してドナルド・トランプ米大統領を批判しました。その争点とは、2017年8月に南部バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者と反対派の衝突事件です。米CNNによると、この衝突で反対派の女性1人が死亡し、19人が負傷しました。

 しかし、当時トランプ大統領は「双方に素晴らしい人がいる」と述べて、白人至上主義者を擁護する発言を行い、「喧嘩両成敗」の立場を取りました。白人至上主義者は、トランプ大統領の支持基盤の一角を成しているからです。

 出馬宣言のビデオで、バイデン前副大統領は白色の頭巾を被らずに、松明を持ってシャーロッツビルを堂々と行進している白人至上主義者を紹介し、「ドナルド・トランプに大統領職を8年間許せば、この国の性格と私たちのあり方が、永久に根本的に変わってしまう。私はそれを傍観していることはできない」と、出馬の理由を語気を強めて語りました。

 加えて、「核心的価値観、世界における地位、民主主義そのもの、米国を米国たらしめるすべてのものが危機にさらされている」とも述べて、米国が直面している事態を憂慮しました。核心的価値観とは、米国が公民権運動を通じて勝ち取った人種・民族間の「平等」を指しているのでしょう。

 ではバイデン氏がシャーロッツビル事件をピンポイントで取りあげた意図は、一体どこにあるのでしょうか。

 第1に、トランプ大統領と自身のメッセージのコントラストを鮮明にすることです。白人至上主義者を擁護するトランプ大統領のメッセージに対して、「白人至上主義を決して許さない」という対照的なメッセージを有権者に発信する狙いがあります。

 第2に、トランプ大統領を米国の核心的価値観に対する「脅威」として描き、「自分は『価値観のチャンピオン(擁護者)』である」というメッセージを送る思惑も含んでいます。バイデン氏は、核心的価値観を変えてしまうトランプ大統領から「自分は米国を守る」という決意を示しました。

 第3に、アフリカ系の票の獲得です。筆者が16年米大統領選挙で研究の一環としてクリントン陣営に参加し、10州以上で戸別訪問を実施したとき、「トランプは人種差別者だ」と断言したアフリカ系の有権者は少なくありませんでした。バイデン前副大統領は、シャーロッツビルの人種間の対立を争点にして、同系の支持獲得を狙ったことは間違いありません。

 ただ、この出馬宣言のビデオにバイデン陣営の本音もはっきり読み取れます。率直に言ってしまえば、同陣営はトランプ大統領に対して、経済問題では勝ち目はないとみています。失業率、雇用創出及び株価ではトランプ大統領に太刀打ちできないので、人種問題で勝負に出たわけです。


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