今回のテーマは、「トランプの3つの思惑」です。ドナルド・トランプ米大統領は、アフリカ北東部エチオピアで起きた旅客機(ボーイング737MAX)の墜落事故、ニュージーランド・クライストチャーチのモスクにおける銃乱射事件及びロシア疑惑に関して、意味ありげな発言を繰り返しています。本稿では、トランプ大統領のこれらに関する発言の思惑を探ります。
飛行機事故と支持基盤
ボーイング737MAXが3月10日に墜落事故を起こすと、早速各国は「安全に運航可能が確認できるまで、同型機の運航を一時停止する」と発表しました。しかし、ボーイング社の本社がある米国は即座に対応しませんでした。
その背景にはトランプ大統領とボーイング社の蜜月があるとみてよいでしょう。以下で、例を挙げてみます。
まず、トランプ政権で国防長官代行を務めるパトリック・シャナハン氏はボーイング社の元上級副社長でした。ハノイで開催された2回目の米朝首脳会談の際、トランプ大統領は「トップセールス」を行い、ベトナムとの間で100機のボーイング737MAXの売却契約を結んでいます。
さらに、トランプ大統領は昨年の米中間選挙終盤の10月19日、米西部アリゾナ州メサのトランプ集会で演説を行う前に、ボーイング社を含めた航空・軍需産業のCEOと面会をしていました。
トランプ大統領はボーイング社をかなり持ち上げた発言もしています。2017年に米南部サウスカロライナ州にあるボーイング社の工場を訪問したとき、演説の最後に「米国に神の恩恵がありますように」と述べたあと、「ボーイング社に神の恩恵がありますように」と加えました。同社と蜜月関係にあることは間違いありません。
その理由は明白です。航空・軍需産業で働く労働者はトランプ大統領の極めて重要な支持基盤だからです。中でもボーイング社は15万3000人の従業員を抱えており、ボーイング737MAXは同社の営業利益の3分の1を占めているといわれています。ボーイング737MAXに関して、彼らにマイナスの影響を与える判断は先送りしたいという思惑があったのでしょう。
しかも、トランプ大統領の置かれた状況が対応を遅らせた一因であるともいえます。
以前述べましたが、仮に来年の米大統領選挙で再選を果たせず元大統領となった場合、トランプ大統領は選挙資金法違反及び共謀罪で訴追される可能性があります。元顧問弁護士のマイケル・コーエン被告の議会証言で、再選の意味合いがまったく異なってきました。
トランプ大統領にとって、航空・軍需産業に携わる労働者の票の確保は、一気に重要度を増してきたわけです。