今回のテーマは、「米民主党候補指名争い」です。米民主党候補指名争いは、ヒラリー・クリントン元国務長官、前ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏及びシェロッド・ブラウン上院議員(中西部オハイオ州)が出馬を見送ったものの、以前として乱立状態になっています。
本稿では、まず最新の世論調査に基づいて、注目候補のアドバンテージ並びに有力候補の課題を分析します。そのうえで、民主党候補指名争いと安倍晋三総理の関係について述べます。
「伸びしろ」のあるハリス議員
20年米大統領選挙における民主党候補指名争いは、2月3日に予定されている中西部アイオワ州の党員集会から始まります。同州の民主党員を対象とした地元有力紙デモイン・レジスターと米CNNの共同世論調査(19年3月3-6日実施)によれば、支持率トップの候補は、まだ出馬宣言をしていないジョー・バイデン前副大統領で27%でした。
2位はバーニー・サンダース上院議員(無所属・米東部バーモント州)の25%、3位はエリザベス・ウォーレン上院議員(米東部マサチューセッツ州)の9%、次いでカーマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)の7%となっています。他の候補は5%以下です。
ただ同世論調査をみますと、ハリス上院議員が知名度とともに好感度が最も上がっています。昨年12月に実施した同調査では好感度が49%でしたが、今回は9ポイント上がり58%になりました。ハリス議員には「伸びしろ」があるとみてよいでしょう。
これに対して、2位のサンダース上院議員は好感度を下げ、3位のウォーレン上院議員は伸び悩んでいます。
ハリス上院議員は54歳です。同議員は元検察官で、カリフォルニア州オークランドが選挙地盤です。
サンフランシスコ地方検事及びカリフォルニア州司法長官を経て、16年に初当選しました。現在、上院議員1期目です。思えば、バラク・オバマ前大統領が大統領選に挑戦したときも、上院議員1期目でした。
ハリス上院議員の父親はジャマイカ、母親はインド出身です。オークランドで行った大統領選挙の出馬宣言で、ハリス議員は「母親からファイティングスピリット(積極的に戦う気力)を学んだ」と紹介し、米国民、特に「中間層のために戦う」と誓いました。
加えて、トランプ大統領の米国ではなく、本来あるべき米国の姿を描き、支持者から支持を得ました。たとえば、その中には、「難民を受け入れる米国」「白人至上主義を擁護しない米国」があります。
ハリス上院議員には、少なくとも以下の4つのアドバンテージが存在します。
第1に、ハリス議員のユニークな属性です。米NBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナル紙の共同世論調査(19年2月24-27日)によれば、民主党候補の中で有権者が望む「熱狂的な候補」とは、「白人男性」ではなく、「アフリカ系」で「女性」という結果が出ています。
ハリス議員は「アフリカ系」「ヒスパニック系」「インド系」「女性」という大変ユニークな属性を有しており、それらを前面に出しながら戦うことができます。この点において、他の白人女性や男性の候補よりもメリットがあることは確かです。
第2に、トランプ大統領がハリス議員をどのように攻撃すべきか、まだ対策を見出していない点です。おそらく、同大統領にとって攻撃しずらい相手なのでしょう。
というのは、ハリス議員を激しく批判すると、非白人の女性票が逃げていくからです。つまり、人種とジェンダーの2つの「地雷」を同時に踏むわけです。
トランプ大統領は昨年の米中間選挙で、すでにバイデン前副大統領、サンダース上院議員及びウォーレン上院議員に非難を浴びせています。彼らに対しては、かなり自信を持っているようです。
第3に、元検察官であるハリス議員は、「法を守るハリス」対「法を犯すトランプ」という対立構図を作り、有権者にアピールできます。これもハリス議員のメリットであり、看過できない点です。
第4に、ハリス議員のスタイルです。今回の民主党候補指名争いでは、国民皆保険やメキシコとの「国境の壁」建設などの争点において、候補者がほぼ同じ立場をとっているので、政策面で明確な相違を打ち出すのはかなり困難になります。言い換えれば、民主党支持者は政策における各候補の相違が分かりにくいということです。
従って、ジェンダーや人種に加えて、各候補のスタイルが重要になってくるでしょう。ハリス上院議員には硬軟を交えた演説を行い、支持者を引き付け熱狂的にする能力があります。