今回のテーマは、「米中首脳会談と悪夢の再来」です。ベトナムの首都ハノイで開催された米朝首脳会談が終了し、ドナルド・トランプ米大統領は今月27日前後に、南部フロリダ州にある別荘マール・ア・ラーゴで開催が予定されている米中首脳会談に臨みます。主たる議題は、対中貿易不均衡の是正、知的財産権の侵害、強制的技術移転及び国有企業への補助金支給などです。
ただ、トランプ大統領の最大の懸念材料は、議会民主党の動きと、ロシア疑惑の捜査を行っているロバート・モラー特別検察官の最終報告書の内容でしょう。そこで、本稿では米中首脳会談と議会民主党及びモラー最終報告書の関係について述べます。
交渉の場を退席するのか?
マイク・ポンぺオ国務長官は米朝首脳会談が開催されたハノイから帰国すると、米中西部アイオワ州農業局で講演を行いました。同州は、中国による米国産の大豆輸入拡大を歓迎しています。言うまでもなく、アイオワ州は再選を狙うトランプ大統領にとって、カギとなる中西部の一角を占めています。
ポンぺオ長官は中国に関して市場開放よりも、構造改革が困難であるという見解を示し、特に強制的技術移転の問題を取りあげました。
米朝首脳会談に向けてハノイに出発する直前、トランプ大統領は米中通商協議について「実務者には権限はない」と語り、あくまでも習近平国家主席との「1対1」の直接対話、いわゆる「トップ外交」によって決定する意向を示しました。つまり、米朝首脳会談と同じ交渉スタイルで臨むという意味です。
さらに、劉鶴(リューホー)副首相を先月22日に、ホワイトハウスの執務室に迎えた際、トランプ大統領と中国との貿易交渉を担当するロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)との間でハプニングが起こました。
ライトハイザー代表が「合意は覚書の形になる」と述べたとき、トランプ大統領は「私は覚書を好きではない。意味がない」と一蹴し、交渉相手の劉副首相の前で覚書を契約に変えるように指示を出したのです。
ライトハイザー代表は困惑をした表情を浮かべていましたが、トランプ大統領のこの発言は本音でしょう。米朝首脳会談での非核化交渉と同様、中国との次の会談でも同大統領は高いレベルの要求をしてくるかもしれません。
ということは、習主席はトランプ大統領が満足がいく提案内容を「お土産」にして訪米しなければ、同大統領は交渉のテーブルから退席することもあり得ます。その一方で、米中首脳会談においても具体的な成果を出せず会談が決裂すれば、トランプ大統領は議会民主党から「米朝会談と同じだ」と、批判を浴びることは明らかです。