むしろ、商品化に時間を要したのは成分全体のバランスだった。洗浄力、除菌力、トイレットペーパーに含ませた時の拭き取りやすさとボロボロの抑止性能、さらに当初からこだわってきた香料を含む「トータルでの性能の検証」に2年余りをかけた。香りはトイレ洗剤では異例のアップルにした。
並行して横手は、ネーミングやパッケージデザインを詰めて行った。「家族みんなで気軽に掃除」というコンセプトから、容器のデザインは従来のトイレ洗剤にはない、可愛らしいものになった。トイレ洗剤は普通、目立たない所に置いておくものだが、横手は「誰もが気づいた時に掃除しやすいよう、むしろ目につく所に置いてもらえるデザインにこだわった」という。
確かに、この容器だと来客の目に止まっても不快感は与えないだろう。さらに、容量は便器専用洗剤の半分程度の小ぶりにした。トイレ内の狭い棚などに置きやすく、また子どもにも掴みやすいよう配慮したものだ。
トイレットペーパーが崩れにくいという、この洗剤の大きな特徴は、テレビCFなどでズバリ「ボロボロ防止成分配合」とアピールした。販売店がトイレットペーパー売り場に「まめピカ」を陳列できるよう、専用什器を用意するなどの販売促進策も効いた。関連する商品をワンストップで販売する〝クロスマーチャンダイジング〟という手法である。
ソニーのウォークマンに感動
商品でライフスタイルを変えたい
ここ10年来、トイレ用洗剤の総市場は年間100億円から110億円規模で推移してきたが、まめピカ発売後は前年を約2割上回るペースになっているそうだ。もちろん、まめピカだけが寄与しているわけではないものの、横手は日用品の流通業界から「新しいトイレまわり掃除を提案したことで、市場の拡大に貢献している」と、うれしい反響を聞くことが増えた。
大学でマーケティングを専攻した横手は、授業で取り上げられたソニーの「ウォークマン」に感動したことがある。そして「ライフスタイルや文化を変え、創り出すことができる」と、メーカーを志望するようになった。
00年に入社、営業部門などを経て念願の商品企画担当になったのは08年春から。「文化を創るという大げさなことは、まだできないにしても、日用品を通してお客様の生活が楽しくなるような製品を世に送り出したい」と願っている。まめピカは、そうした目標に向け、自信をもてる一品となりそうだ。(敬称略)
■メイキング オブ ヒットメーカー 横手弘宣(よこて・ひろのぶ)さん
ライオン リビングケア事業部副主任部員
1977年生まれ
兵庫県宝塚市に生まれる。テレビ番組のプロデューサーをしていた父親と、映画鑑賞や、野球観戦などに出かけていた。体を動かすのも好きで、高校時代から始めたアメリカン・フットボールを、大学、社会人まで続けることになる。ポジションは、オフェンスの頭脳部であるクォーターバック。
1996年(18歳)
流通科学大学(神戸市)に進学。同大学は、ダイエー創業者である中内W氏が創設し、学長を務めていた。大学内のローソンで働きながら単位を取得できるユニークなカリキュラムがあり、マーケティングの面白さに目覚める。大学卒業時と就職氷河期が重なったため、就職活動には苦労した。
2000年(22歳)
ライオンに入社。営業として、東京のドラッグストアを担当する。フットケア商品を、ストッキング売り場に陳列するなど、様々なクロスマーチャンダイジングを店舗に提案していた。
2006年(28歳)
現在在籍するリビングケア事業部に異動。事業戦略などに関わる。
2008年(30歳)
商品企画の担当となる。すすぎの節水を実現した浴室用洗剤である「おふろのルック」を開発した。現在は3つの開発案件に取り組んでいる。
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