2022年8月17日(水)

WEDGE REPORT

2019年6月3日

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布施哲 (ふせ・さとる)

テレビ朝日ワシントン支局長

1997年上智大学法学部卒業、同年テレビ朝日入社。これまで政治部記者として国内政治を取材。防衛大学校総合安全保障研究科修了(国際安全保障学修士)、安倍ジャーナリストフェロー、フルブライト奨学生としてジョージタウン大学、米CSBA(戦略・予算評価センター)での客員フェローを経て現職。関心分野は米中関係、日米同盟、安全保障問題、中国および台湾による米国におけるロビー活動など。主な学術論文や著書に『米軍と人民解放軍』(講談社現代新書)、『対中アクセス拒否戦略』(国際安全保障学会最優秀新人論文賞)、『南シナ海問題の軍事的側面と戦略的意味』(慶應大学)など。

トランプを動かした2つの要因

 その背景には、「ロシア疑惑」、「オバマ憎し」という2つの国内政治要因があるというのが本論の趣旨である。どういうことか?順を追って説明していこう。

 まずは、2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが干渉したとされるロシア疑惑だ。疑惑の捜査は当時、まだモラー特別検察官の捜査報告書も提出されていない中、どこまで捜査の手が伸びるのか、果たして現職大統領の刑事責任を問う証拠は出てくるのかがワシントンでの最大の注目となっていた。

 訴追につながり得る材料が出てくれば、来年の大統領選の再選の芽はなくなるどころか、大統領の弾劾にもつながりかねない。この2年間、トランプ大統領の頭の中を不安が覆い続けてきた。それを裏付けるように日々の大統領のツイートの多くは、ロシア疑惑に関連するものが大半を占めていた。

 そんな中、米朝首脳会談は、しばし本国から離れて成果作りに集中できる晴れ舞台であったが、ロシア疑惑はハノイという晴れ舞台にもつきまとってきた。

 かつてトランプ大統領の顧問弁護士を務め、あらゆるスキャンダルの火消しにかかわったとされるコーエン氏が証言台に立ったのだ。トランプ大統領に関わる裏仕事を一手に引き受けてきたとされるこの人物が、米朝首脳会談の日に議会で証言し、かつてのボスを「詐欺師、人種差別者」と批判したのであった。

 3大ネット各局などが一斉にコーエン証言をトップで報じるなど、アメリカ国内ではすっかり米朝首脳会談は色あせてしまった。成果をあげて歴史的な会談にしようとするトランプ大統領の意気込みとは裏腹に、「歴史的な合意への試みはコーエン証言に圧倒されてしまった」(2月27日付ワシントンポスト紙)のである。

 ロシア疑惑によって、成果と認められるためのハードルは確実に上がり、余程、画期的な内容での合意でなければ、とても国内での逆風を帳消しにはできない政治状況になっていたのである。

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