2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2019年6月3日

トランプを動かした2つの要因

 その背景には、「ロシア疑惑」、「オバマ憎し」という2つの国内政治要因があるというのが本論の趣旨である。どういうことか?順を追って説明していこう。

 まずは、2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが干渉したとされるロシア疑惑だ。疑惑の捜査は当時、まだモラー特別検察官の捜査報告書も提出されていない中、どこまで捜査の手が伸びるのか、果たして現職大統領の刑事責任を問う証拠は出てくるのかがワシントンでの最大の注目となっていた。

 訴追につながり得る材料が出てくれば、来年の大統領選の再選の芽はなくなるどころか、大統領の弾劾にもつながりかねない。この2年間、トランプ大統領の頭の中を不安が覆い続けてきた。それを裏付けるように日々の大統領のツイートの多くは、ロシア疑惑に関連するものが大半を占めていた。

 そんな中、米朝首脳会談は、しばし本国から離れて成果作りに集中できる晴れ舞台であったが、ロシア疑惑はハノイという晴れ舞台にもつきまとってきた。

 かつてトランプ大統領の顧問弁護士を務め、あらゆるスキャンダルの火消しにかかわったとされるコーエン氏が証言台に立ったのだ。トランプ大統領に関わる裏仕事を一手に引き受けてきたとされるこの人物が、米朝首脳会談の日に議会で証言し、かつてのボスを「詐欺師、人種差別者」と批判したのであった。

 3大ネット各局などが一斉にコーエン証言をトップで報じるなど、アメリカ国内ではすっかり米朝首脳会談は色あせてしまった。成果をあげて歴史的な会談にしようとするトランプ大統領の意気込みとは裏腹に、「歴史的な合意への試みはコーエン証言に圧倒されてしまった」(2月27日付ワシントンポスト紙)のである。

 ロシア疑惑によって、成果と認められるためのハードルは確実に上がり、余程、画期的な内容での合意でなければ、とても国内での逆風を帳消しにはできない政治状況になっていたのである。


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