ユダヤ人国家が乗っ取られるリスク
こうしたイスラエルが直面するジレンマの1つが中東和平問題だ。93年の「オスロ合意」で確定したパレスチナ自治区は将来のパレスチナ国家を見据えたもので、その基本的な最終形はイスラエルとパレスチナ国家が並立する「二国家共存」方式だった。これは国際的に認知された方式でもある。
しかし、和平交渉は14年以降、暗礁に乗り上げたままだ。その障害の一つがイスラエルの入植地政策だ。イスラエルは和平交渉が停滞しているのを尻目に西岸への入植地を拡大。現在は40万人ものユダヤ人が住むまでになっている。このまま入植地が広がれば、いざパレスチナ国家を樹立しようとしても、ユダヤ人入植者がネックになって国家建設は困難になってしまう。
さらにネタニヤフ首相の入植地併合方針は、入植地をなし崩し的にイスラエルの領土にしてしまうという意味であり、事実上「二国家共存」の否定に他ならない。行きつく先はすべての自治区をイスラエルに併合し、一つの国家「大イスラエル」の創設だろう。
だがこれでは、ユダヤ人とパレスチナ人という対立してきた二つの民族が「一つの家」に住むことになり、難題に直面する。つまりパレスチナ人にも、選挙権などユダヤ人と同等の基本的権利を与えるのか、という問題だ。
平等の権利が付与されなければ、パレスチナ人はかつての南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)と同様、差別された〝二級市民〟になってしまう。支配者と被支配者に分断されれば、抵抗と抑圧が生まれ、暴力の連鎖による治安悪化は避けられない。結果、イスラエルは名実共に民主国家の地位を捨てなければならなくなるだろう。
だからといって、パレスチナ人に平等の権利を付与すれば、やがて出生率の高いパレスチナ人の人口が増え、ユダヤ人国家がパレスチナ人に乗っ取られてしまう恐れが出てくる。大きなジレンマだ。このためネタニヤフ首相は〝ステイト・マイナス〟(準国家)という意味不明の地位をパレスチナ人に与える案を示唆しているが、パレスチナ人から強い反発を呼んでいる。