WEDGE REPORT

2019年5月31日

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核合意離脱で困るのはイスラエル

 何といってもイスラエルの最大の恐怖は「核武装したイラン」の出現である。このためイスラエルはこれまで、単独でもイランの核開発を阻止するとして、イラン攻撃の危機を高めてきた。

 イラン核合意が15年7月に結ばれた後は、合意の破棄を米欧に働きかけてきたが、当初はうまくいかなかった。だが、トランプ政権の登場で状況は劇的に変わった。トランプ大統領がイランと敵対し、封じ込めに動いたからだ。大統領は18年5月、核合意から離脱し、イランへの制裁を再開、外見上はイスラエルの勝利に終わった。

 5月に入り、米国がイラン産原油禁輸制裁の適用除外措置を打ち切ったことなどを受けて、イランは核合意の一部履行を停止すると発表。一連の制裁強化でイラン国民の生活は悪化しており、保守穏健派のロウハニ政権が倒れるようなことがあれば、対米強硬派の保守派が政権を掌握、核合意を破棄し、核開発再開に舵を切る恐れがある。

 こうなって一番困るのは実はイスラエルだ。核開発を力で阻止する以外に道がなくなるからだ。イスラエルには二つの原子炉攻撃の実績がある。一つは81年のイラクのオシラク原子炉、もう一つは07年のシリアの原子炉で、いずれも完成前に空爆して破壊した。

 だが、イランの場合は状況が異なる。イランが攻撃を受ければ、弾道ミサイルで反撃する可能性が高く、イスラエルも相当の損害を覚悟しなければならない。しかも大国の宗教国家だ。イスラエルは今後、イランとの消耗戦を戦わなければならなくなるだろう。経済的なコストも含めその代償は莫大だ。

 頼みの綱のトランプ大統領もイスラエルを支援してイラン攻撃に加わることには二の足を踏むだろう。大統領が忌み嫌う米軍の大規模派遣を検討しなければならないからだ。しかも、攻撃を受けたイランがペルシャ湾の石油の大動脈ホルムズ海峡を封鎖したり、サウジアラビアを攻撃して戦線を拡大したりする恐れもあり、米国がイスラエルに自制を促す事態も想定されよう。

 だからイスラエルにとっては、米国に核合意を離脱させたことが最終的に自らを追い詰める結果になりかねない。米国とイスラエルに欠けているのは、イランを追い込んだ後の戦略がないことだ。焦点は宗教国家イランの体制転換を追求するのかどうかだが、ペルシャ湾地域の動乱が世界を大きく揺さぶることになるのは確実だ。

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■出口なき中東
PART 1 革命防衛隊をテロ組織に指定しイランの「脅威」を煽るトランプの思惑
PART 2   2つのジレンマに悩む最強国家イスラエルの意外な弱点
PART 3   党派性が強まる米国とイスラエルの「特別な関係」に孕むリスク
PART 4   米国の「自由と民主主義」に翻弄され「冷戦」に陥った中東

  
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◆Wedge2019年6月号より

 
 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 
 

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