2022年11月30日(水)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年5月30日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

安倍総理の非言語コミュニケーション

 日米首脳会談前の冒頭で、トランプ大統領は日米貿易交渉に関して「おそらく8月に素晴らしい内容の報告ができるだろう」「もう少し話し合うことがある」と記者団に打ち明け、「8月合意」に強い意欲を示しました。

 このとき、安倍総理は目を大きく開けて視線を一瞬上に向けました。おそらく、トランプ大統領が記者団の前で予期せぬ発言をしたからでしょう。

 率直に言ってしまえば、トランプ大統領は貿易交渉で「サプライズ」発言をして、参院選終了後、早期に合意するように安倍総理に対してクギを刺しました。日米首脳会談の直前に牽制球を投げて、会談を有利に進めようとした同大統領の意図も見えます。

 さらに、米メディアから今回の訪日1日目を「観光客として過ごした」と揶揄されたトランプ大統領は、支持基盤である米中西部のアイオワ州及びウイスコンシン州などの農家に向けて、「日本でも農産物に関して自分はタフな交渉を行っている」というメッセージを発信したともいえます。

首脳会談延長の理由

 日米首脳会談は異例の延長となりました。会談の大幅延長はどちらかといえば、悪いサインです。一般に「溝が埋まっていない」「もめている」「衝突している」などが原因です。

 一体何があったのでしょうか。

 実はトランプ大統領は、訪日の2日前にホワイトハウスに農家を招き、中国との関税戦争で打撃を受けている彼らを救済するために、補助金を支給すると発表しました。中国は米国産の農産物に対して報復関税をかけて、トランプ政権に激しく抵抗しいます。「トランプ訪日の狙いと日米首脳会談の隠された議題」で紹介しましたが、2020年米大統領選挙の最重要州であるウィスコンシン州では、その影響を受けて大豆、豚及びチーズを扱う農家が倒産しています。

 このような状況で、トランプ大統領は是が非でも日本市場での農産物拡大を実現しようと、本腰を入れて来日したとみるできでしょう。にもかかわらず、日本側はトランプ大統領は「令和」初の国賓として来日するので、「さすがに今回は貿易で厳しい要求はしないだろう」と、誤った読みをしていたのかもしれません。あるいは、「おもてなし外交」によって、米国の要求を抑え込むことができると計算していたかもしれません。いづれも見事に外れました。

 日本側は、農産物の関税引き下げはTPP(環太平洋経済連携協定)の水準が最大限とする立場をとっています。しかし、日米首脳会談後の共同記者会見でトランプ大統領は、「米国はTPPに縛られない」と主張して、農産物のさらなる関税引き下げを日本に強く求めました。つまり、農産物に対する関税引き下げに関する溝が埋まらず、首脳会談が延長した可能性があります。

 また、安倍総理は「貿易交渉を加速することで一致した」と強調しましたが、合意に至るまでのスピードの相違も会談で顕著になったといえそうです。トランプ大統領の速度は安倍総理のそれよりもはるかに速く「8月合意」です。

 従って安倍総理の「おもてなし外交」は、トランプ大統領の農産物の関税引き下げの要求を止めることも、交渉の速度を落とすこともできず、効き目がなかったと言わざるを得ません。

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