2024年11月22日(金)

解体 ロシア外交

2011年12月21日

 さらに、これまでクレムリンの公認を受けているロシア正教会は政治には意見を表明することはなかったが、今回は、聖職者たちからも批判的な声が次々と噴出している。特に、教会は、ソ連時代の弾圧の記憶がまだ生々しく、共産党の再来を危惧していることから、与党に対しては、ずっと寛容であったのだが、今回ばかりは、聖職者の間でも、キリスト教徒として、嘘、特に何百人もの人々に対する嘘に抗議するべきだという機運が高まっている。国民の不満があまりに高まる中、教会もその批判を抑え込めないと判断し、聖職者の発言も黙認していると言って良い。

報道の自由はまだ容認されず

 メディアにも変化が訪れている。下院選挙前や直後は、不正疑惑の報道は、主にインターネットや新聞で行われ、政権の支配下にある三大テレビは抗議デモについて報じなかった。しかし、運動の高まりをテレビも無視できなくなり、10日の大規模な集会をトップニュースで報じたのを皮切りに、選挙の不正の映像も放映し始めた。さらに、プーチン氏の抗議行動は米国が煽動したものだとする発言も、その発言が非現実的であることを示唆する編集となっていたという。

 だが、自由な報道を容認する空気はまだ醸成されていない。たとえば、13日にはロシア有力紙のコメルサントが発行する週刊誌「ブラスチ」のコワリスキー編集長が、同紙発行元の大株主である富豪ウスマノフ氏により更迭されたと報じた。発行元のクドリャフツェフ社長も13日に引責辞任した。12日発行の同誌の最新号に掲載されたプーチン氏を揶揄した不正選挙に関する記事が原因とされている。その他、コメルサントを傘下に収める同名持ち株会社の社長も解任された。

 最後に、今回の抗議行動の担い手がプーチン政権で経済的恩恵を受けたはずの都市部の若い中産階級だということもプーチン氏にとって大誤算であったといえる。以前のように一部のインテリが政治行動を起こしているのとは持つ意味が異なり、特にプーチン時代に豊かになった者の反発のうねりはプーチン氏にとって大きな衝撃だったという。モスクワの調査機関「戦略発展センター」のドミートリエフ所長によれば、2010年頃からモスクワをはじめ各都市で政府に敵対的な住民が、特に若者の間で出現していて、その傾向が特にクレムリンの周辺約16キロの地域に集中して居住する約500万人の間に見られるのだという。

追い詰められるプーチン

 このように、プーチン氏はいよいよ追い詰められた感がある。それでも、15日の国民との直接対話で、彼が下院選のやり直しには応じないこと、メドヴェージェフ氏を次期首相にする考えに変わりがないことを表明し、野党との対決姿勢を強めている。他方で、インターネットや抗議行動における政権批判を非難し、政治は選挙に基づくべきだという持論を展開した。

 また、冤罪とみなされているものの、脱税などの容疑で服役を強いられている石油大手ユコス(破産)の元社長・ホドルコフスキー氏から恩赦の依頼があれば、大統領に復職した折に検討すると述べた。ホドルコフスキー氏は、ロシアの非民主的、反人権的体質の象徴となっており、欧米諸国から深刻な人権問題として度々批判を浴びてきた問題であり、プーチンが限定的にも欧米に対してアピールをしようとしている様子が見て取れる。

 かつての飼い犬たちも反旗を翻し始めた今、プーチン氏は崩れそうな権威を何とか維持するために、内外に強面の姿勢を貫き通す一方、様々な妥協をしつつ今後の対応に苦悩しているといえそうだ。


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