そもそも年金支給開始年齢は上昇中
在職老齢年金の話をする前に、そもそも65歳未満の人に対する厚生年金の支払いは、そもそも数年後には行われなくなります。すでに支給開始年齢は段階的に引き上げられていて、男性は2025年度にかけて、女性は2030年度にかけて、65歳まで引き上げられていくわけです。
これ自体は、すでに決まっていて実行されつつあるわけで、「年金制度の改悪だ」と言っても仕方のないことです。むしろ、これによって65歳まで働く人が増えることは、上記からも「望ましいこと」だと筆者は考えています。
そもそも政府が悪いというよりも、良い薬ができたおかげで人々が長生きできるようになったことが年金財政を苦しくしているわけですから、その意味でも「望ましいことの副作用」。だと言えるでしょう。
そして、これによって在職老齢年金の問題は大きく改善するでしょう。65歳までの方が65歳以降よりも「一定以上の収入を得たら年金を減額する」という基準が厳しいからです。
大雑把ですが、65歳までは「給料プラス年金が月額28万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」、65歳からは「給料プラス年金が月額47万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」と考えて良いでしょう。
しかし、それでも制度自体に問題があるのであれば、それはやはり廃止すべきでしょう。
国民の誤解が怖いという面も
在職老齢年金は、制度自体が時代にそぐわなくなっているわけですから、廃止すべきだと思いますが、それまでの間、政府は現状の制度について国民が正しく理解するよう、啓蒙活動に努める必要があるでしょう。
年金の制度を正しく理解している国民は、決して多くないでしょう。まして、在職老齢年金について正しく理解している高齢者は少ないはずです。そうなると、「高齢者が働くと損をする」という誤解に基づいて働くのを手控えてしまう人が大量に発生してしまいかねません。
まずは国民が制度を正しく理解するように努める必要があるでしょう。「働いたことで収入が減ることはない。働いたことで、本来得られるはずだった追加の収入が半分になることはあり得るが、収入が増えることは間違いない」ということです。
これは「130万円の壁(サラリーマンの専業主婦のパート収入が130万円に達すると、社会保険料の支払い義務が生じるので、年収がむしろ減ってしまう制度)」などとは決定的に異なるわけです。
そこで、まずは制度を正しく理解してもらって高齢者に働いてもらうように努め、平行して不都合な制度は廃止する方向で検討する、ということが望まれるわけです。
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