2023年1月27日(金)

Washington Files

2019年6月24日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

他の問題でへそを曲げ、一時棚上げにする

 民主党幹部側との協議以外でもこれまで、事務レベルでインフラ関連の動きが軌道に乗りかかった矢先、大統領が他の問題でへそを曲げ、一時棚上げにするといったいくつかの“罪状”が指摘されている。

 たとえば、2017年5月、イレーヌ・チャオ運輸長官が「数週間中に1兆ドル規模のインフラ計画を提出する」と発表後、トランプ大統領が「ロシア外相および駐米大使らと高度の米側機密情報を共有していた」との暴露記事がワシントン・ポスト紙に報道されたことなどを理由に、インフラ計画発表を延期した。

 同年8月、大統領はインフラ計画推進の大統領命令署名を機会に記者会見に臨んだが、ほとんどの時間をバージニア州シャーロッツビルで乗用車突入テロを起こした白人過激派の弁護などに費やし、インフラ問題にはおざなりに触れただけだった。

 2018年2月、ホワイトハウス・スタッフは1兆5000億ドル規模の新たなインフラ計画を作成、大統領が発表に及んだが、この時もマイケル・コーエン大統領顧問弁護士が大統領のセックス・スキャンダルもみ消しのため、ポルノ女優に多額の金を支払ったことが報道され、ホワイトハウスが対応に追われるなど、インフラ計画の予算をめぐる議会との調整が先延ばしになった。

 2019年4月、大統領と民主党議会指導者がインフラ投資規模について「2兆ドルで合意」と伝えられたが、この間、大統領はロシア疑惑を捜査したモラー特別検察官と大統領の立場を擁護するバー司法長官との見解の対立問題に気が取られ、その後は「2兆ドル」の数字だけが一人歩きするだけで、具体的な資金調達方法についての協議は立ち止ったままだった。

 そして直近では「わずか3分」で終了したのが、冒頭で触れた大統領と民主党議会指導部との間で開かれた先月22日の協議だった。その後は、民主党とホワイトハウスのいずれからも、インフラ整備計画を先に進めるための具体的な動きは見られず、こう着状態が続いている。

 今後の見通しについても、資金ねん出の一案としてガソリン税増税を主張するホワイトハウスと、これに猛反対し代わりに富裕層所得税引き上げなどを提案する民主党側との根本的対立の溝が容易に埋まるとは期待できない。さらには来年11月大統領選挙と議会選挙に向けて、双方とも政治判断を余儀なくされることから、ワシントン政界通の間では早くも、「インフラ計画が具体的に実現するとしても2021年以降」との悲観的見方も出ている。

 一方、連邦政府が本腰を入れ取り組んだ過去の主だったインフラ事業としては、フランクリン・ルーズベルト大統領が推し進めた世界最大規模の「フーバーダム」建設(1931年着工)、「テネシー川流域開発公社」(TVA)計画(1933年開始)などがあるが、これらはいずれも当時、大恐慌最中の大量失業対策の一環として実現したものだった。

 ところが、今アメリカ経済は順調に推移し、失業どころか、各都市でも人出不足が深刻化しつつある。緊急に大規模社会投資を必要とした1930年代当時とは状況は大きく異なる。

 トランプ大統領が就任当初、大見えを切って見せたものの、その後は、口先だけでインフラ改革に本腰で乗り出す意欲を見せようとしないのも、実はこうした時代的背景があるとみられている。

  
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