2024年11月22日(金)

Washington Files

2019年7月16日

「学士号」の価値が下落した結果、さらなる借金で大学院へ

 筆者は数年前、アメリカ滞在中に首都ワシントンの私立ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程(国際経済専攻)に在学する学生(当時30歳)に詳しくインタビューしたことがある。

 彼の場合、学部はフロリダ州立大学で融資を受け卒業したものの、毎月の借金返済が可能な収入が期待できる就職先が見つからず、大学院進学を決めたと告白してくれた。そして、ワシントンでもさらに借金を余議なくされており、結局、修士課程修了までのローン総額は推定9万ドルになると嘆いていた。

 つまりアメリカでは大学生数の激増で「学士号」の価値が下落した結果、4年制大学を卒業したとしても、ホテル・ボーイやガソリンスタンド従業員程度の就職口しか見つからなくなっているというのだ。そこで真面目にローン返済するには、さらなるローンを覚悟してまでも大学院に進学せざるを得なくなるという悪循環に陥ることになる。

 実際、「NCES」がまとめた2018年度集計によると、同年度の単科大学および4年生大学在籍学生総数は、2000年時より約450万人増の1990万人に達する一方、このうち約300万人(日本約26万人)が大学院に進学したとみられるという。また、学部時代の学生1人当たりの借金は平均3万7000ドルと推定されており、大学院に進学した場合は出費がかさむため、その2倍以上の負債を抱え込むことになる。

 取材した大学院生もまさにその一人だったが、CNNテレビの調査報道によると、卒業後、社会人となってからも学生時代にたまった借金の返済に追われる人は全米で4400万人にも膨れ上がっており、その中には、20代、30代の若者だけでなく、社会の第一線から身を引いた70代、80代の退職者も含まれているという。

 こうしたことから「学生ローン」問題は、もはや学生だけの懸案ではなく、全米の多くの市民にとっての重大関心事でもあるのだ。

 そこで、来年大統領選挙を控え、「集票効果」が期待できそうな争点として浮かび上がって来たのが、学生ローンの「返済免除措置」問題だった。

 とりわけ大統領指名候補を争う民主党候補たちの間では、避けて通れない重要テーマとなっており、すでに、先月2回に分けて行われた主要候補を招いた市民討論会では、白熱した論議が戦わされた。

 多くの民主党候補の中で、学生救済問題に関し最も明快かつ大胆な提案者として知られるのが、急進派のバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)だ。


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