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2019年7月26日

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香田洋二 (こうだ・ようじ)

ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官

1949年生まれ。72年防衛大学校卒業。海上幕僚幹部防衛部長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年に退官。09~11年、米ハーバード大学アジアセンター上席研究員。

日本船舶等の航行安全確保
自衛隊が活動する法的根拠

 ホルムズ海峡の航行安全確保のために編成される有志連合に我が国が参加して、自衛隊が日本船等の航行安全確保のための任務を遂行する(以下「日本船等を自衛隊が守る」)作戦成功の鍵は、航行安全確保の際の船舶の防護方法である。この作戦は海上航行秩序の維持を目的とすることから、武力行使及び自衛権の発動を要しない海上作戦であり、軍事力による海上の警察活動であると位置づけられる。その際、任務遂行に必要な場合、航行秩序を乱す目的で日本船舶等の安全航行を妨げる勢力に対しては武器の使用が必要になる場合も生起することは当然である。

 上述の日本船等を守る作戦において想定される事態への対処は、2015年9月に成立、公布された平和安保法制を基本とすると、自衛隊法第82条に定める海上警備行動を根拠とすることが適当と考えられる。その際の権限は自衛隊法93条により規定されるが、同条で認められた停船のための武器使用は対象船舶が我が国領海内にある場合に限られるが、わが国から遠く離れたソマリア沖の海賊対処の際の当初の政府の措置、すなわち海賊対処法制定までの間の自衛隊を派遣する根拠として海警行動を発動した際の考え方が参考になると考える。その骨子は次の通りである。

(1)保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など、日本が関与するもの

(2)司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施

(3)武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定

(4)防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画を国会に報告

 これを今次ケースに適用すれば、今回の任務はあくまでもホルムズ海峡における航行安全確保であることから、(2)は不要であり、派遣された自衛隊の部隊運用は(1)、(3)及び(4)に準拠することになる。この際、任務遂行上必要となる公海上の武器使用は、抑制的ではあるが航行安全確保という任務遂行を可能とすると考えられる。

 特に、(1)において防護対象を整理して規定したことは、日本を仕向け地とする船舶の多くが日本船籍ではない現状から、日本船等を守る作戦における防護対象船を明確に規定できることから、この考え方の任務遂行上の合目的性は高いといえる。

 その他、海警行動の際に認められる権限には警察官職務執行法第7条(警職法:武器の使用)、及び海上保安庁法第十六条(協力の要請)、海上保安庁法第十七条第一項(書類の提出・船舶の停止と立ち入り検査・必要な質問)並びに海上保安庁法第十八条(必要な場合の措置)が自衛隊員に適用されることから、現場での部隊運用の幅を広げ、柔軟性を確保することが可能となる。

 次のオプションとして海賊対処法がある。これは公海上で我が国の船舶に対し海賊行為等の侵害活動を行う外国船舶を自衛隊の部隊が認知した場合の対処である。この際の自衛官の職務執行に際しては、海警行動と同様、警職法7条に基づく武器の使用が認められるほか、民間船に接近する等の海賊行為(今次任務では日本船等に対する妨害や威嚇、停船要求あるいは乗船捕獲などが該当)を行っている船舶の航行を停止するため、他の手段がない場合には、その事態に応じ合理的に必要な限度における武器の使用が認められることから、日本船等を守る作戦の根拠として海賊対処法の適用を準備することも必要である。

 ここまで、事態緊迫時のホルムズ海峡の航行安全を確保する際の日本船等を「守る」方策を検討した。この際の大原則は、自国の船の安全は自国が守る、言い換えれば他国は守ってくれないということである。更に、米国が提唱する有志連合は武力行使によるイラン侵攻を目的としたものではないことから、我が国の憲法の下で平和安保法制を適切に適用することにより、我が国自体の活動として、自衛権を発動することなく自衛隊が日本船等を守ることは十分に可能である。

 逆に、それを実施しないという選択は、単に国際協調という問題のみならず、独立国の基本としての自国民の生命と財産の保護という、国家として根本的姿勢を問われることとなり、政府の政策としては極めて無責任と言わざるを得ない。

 一方、将来、さらに事態が緊迫化した際の国際的な活動への取り組みについては、ここまで論議したホルムズ海峡の航行安全確保とは別に、改めて我が国の憲法と平和安保法制の枠内で実施可能な行動方針を定め、実施することが求められる。

 仮に、新たな有志連合が自衛権の発動と武力行使を前提としたイラン侵攻を目的とするものになるとすれば、その枠組みへの自衛隊の参加はあり得ないことも明白であるが、その際も、憲法と平和安保法制に基づく、対テロ戦争における後方支援のような活動は可能となる。

 また、その時点でホルムズ海峡の航行安全活動のための有志連合の下で自衛隊が日本船等を守る活動を実施中(選択肢-3)であるとすれば、我が国政府には、その作戦の継続、あるいは事態を勘案した防衛出動の下令とそれに応じた新たな活動への移行、もしくは実施中の作戦を直ちに中止した撤退という選択肢が残ると考えられる。

 最後に、今次の様なケースに際して速やかに行動に移せるのは、平和安保法制が、様々な事態を想定してシームレスな対応を可能とさせることをその目的の一つとしているからである。

  
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