有志連合編成を打診した
米国の狙いとは
シェール革命による米国のエネルギー供給における中東依存度は著しく下がっている。米国を仕向け地とするタンカー等の運航隻数が極少になっている現状から、ホルムズ海峡の安全航行の確保そのものは米国の直接の国益ではなくなっているといえる。勿論、米国は海洋の自由使用と航行を国益としていることから、ホルムズ海峡を含むペルシャ湾海域の航行安全は米国の国益となることもまた自明の理である。
このため、①の観点からは、米軍が中東、特にペルシャ湾海域を航行する各国船舶の航行安全確保に直接関与する正当性と必要性は減少している。それが、今次トランプ発言の原点、すなわち「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守れ!」ということであろう。
同時に、米国は、ホルムズ海峡を通峡する個々の船舶ではなく、ペルシャ湾全域を世界の安全保障に大きな影響を与える重要地域として安定させる観点から、当該海域の海上交通の秩序を維持することは依然として重要と位置づけているのである。その観点から、ホルムズ海峡航行船舶への挑発や攻撃のような、イランの軍事的冒険主義の抑止と排除を引き続き重視している。
ただし、そのための活動の全てを米国が賄うということではなく、「自国の船を守る力のある国は自分でやる」という大原則を改めて明確にしたものが、先般の統参議長の発言であり、それを具現する第一歩が7月19日の非公式会議と言える。
報道によると、その会議では、米国によるホルムズ海峡の現状認識及び船舶の運航安全確保のための有志連合の必要性が説明されたとのことである。具体的には、自国船舶の航行安全確保は各国の判断とするとともに、米国が各国の自国船舶航行安全確保活動に必要な情報共有メカニズムを構築することを有志連合の活動骨子としたうえで、各国に艦船や航空機の派遣、資金拠出を求めたとされる。
報道では言及されていないが、自国船の航行安全確保を直接実施する力のない国の民間船舶が事態緊迫時に無防備のままペルシャ湾周辺を航行することは別の不安定要素となることから、有志連合参加国による自国船舶の航行安全確保活動と同期して、この様な国の船舶を運航することより、これら船舶にも警戒の目を配する体制を構築するための調整活動(軍事用語で「船舶運航統制」と呼称)も米国が担任すると考えられる。
これらの総合的な効果により、ホルムズ海峡の航行安全を確保する態勢は格段に改善され、結果的にペルシャ湾地域全体の安定に寄与する、ということが米国の狙いと考えられる。