選択肢は4+α
採るべき解は1つ
まず、現地の事態緊迫時の日本船舶、広義には日本を仕向け地とする他国籍船も含む船舶(以下、両者を包括的に「日本船等」)の航行安全をどのように確保するかという課題への取り組みが問われることとなる。
その際の基本事項として、①で示した、日本船等の航行安全を確保するのは日本であり、他のいかなる国も、自国の生存に無関係な外国船としての日本等船の航行安全を確保することはあり得ないという大原則から、事態緊迫時の日本船等の航行安全確保のための自衛隊派遣が有力な選択となる。同時に、我が国には自衛隊を海外に出すことに依然として大きな抵抗が存在することも事実である。
それらの賛否論点も含め総合的に我が国の可能行動を整理すると、以下の選択肢が考えられる。
- 選択肢-1:有志連合不参加・自衛隊非派遣
- 選択肢-2:有志連合不参加・自衛隊派遣、有志連合とは別個に自衛隊が日本船等の安全確保
- 選択肢-3:有志連合参加・自衛隊派遣、有志連合の枠組みの下で自衛隊が日本船等の安全確保
- 選択肢-4:有志連合参加・自衛隊非派遣、資金・後方支援等、有志連合国を間接的に支援
各選択肢の要点を整理すると次のようになる。
選択肢-1
本選択は、国際枠組みを一切無視して、日本船等を自らは守らないということを意味する。要するに、主権国家として日本船等の安全を「運を天にまかせる」または「他国の善意に預ける」ということである。その選択においては、事態緊迫時の日本船等を運航する船員の生命をどう考えるのか、という問題が生ずるとともに、国家活動の基本となるエネルギーの安定供給をいかに担保するかという命題が残る。我が国の一部に根強い、有志連合参加及び自衛隊派遣反対論は、この論議を意図的に避けたとさえ思える観念的な憲法論や平和論のみに立脚したものであり、無責任な論議である。
選択肢-2
これは独立国として責任のある対応であるが、有志連合不参加に起因する任務遂行上の不都合、特に部隊運用上必須となる情報共有態勢が弱化することから安全運航を確保する作戦が非効率となる恐れが常に内在する公算が大となる。更に、我が国単独の作戦は必然的に国際協調の欠落という面の問題を惹起する。
選択肢-3
この選択は、我が国憲法と現行法制及び国際協調やと国際貢献の観点から最適と考えられる。今回、米国が提案する有志連合は②で述べた様に、イランへの兵力投入を前提とした攻勢作戦のための母体とは全く異なる、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、ホルムズ海峡の航行安全確保のための軍事活動母体である。このため、我が国が有志連合に加わり、自衛隊を派遣して自ら日本船等の航行安全を確保することは現行法制、具体的には平和安保法制の枠内で十分に実施可能な活動である。このことから、我が国政府も自衛隊もイラン、ペルシャ湾そしてホルムズ海峡の現状において集団的自衛権を行使した軍事作戦に加わることは全く考えていないと見積もられる。
選択肢-X
選択肢-4以前に、「有志連合不参加・自衛隊非派遣=資金・後方支援等、有志連合国を間接支援」という別のオプションが理論上存在する。これは、結果的にせよ世界から全く評価されなかったイラン・イラク戦争及び湾岸戦争時の論議の繰り返しとなることは明白である。仮に、この選択肢を採用するとすれば、1980年以降の我が国の自衛隊による国際貢献への努力の足跡を完全に消去することであり、同時にその選択は、我が国の国際貢献という時計を40年巻き戻すものでもある。この観点から、本オプションは敢えて本検討の選択肢に入れなかった。
選択肢-4
これは、経済力や後方支援能力の弱い有志連合参加国に対する非軍事面での支援というメリットが存在するが、やはり選択肢-1の最大の問題である、日本船等を我が国が守る、という大原則の無視に直結することから、責任ある国際社会の責任ある一員の選択としては不適切である。
以上から、我が国の選択としては選択肢-3、すなわち自衛隊を派遣した有志連合の枠組みの下で、自衛隊が日本船等の航行安全確保に任ずることが最適である。