7月16-18日、第2回「信教の自由に関する閣僚級会合」が米国務省の主催により開催された。これは、信教の自由を促進する世界最大規模の国際会議で、2018年に引き続く開催となる。18日には、ペンス副大統領とポンペオ国務長官が演説、ベネズエラ、イラン、ミャンマー、北朝鮮などにおける信仰、人権への攻撃を非難した。そして、日本の報道でも大きく取り上げられた通り、中国によるウイグル人弾圧を含む宗教弾圧は、特に強く非難された。
ペンス副大統領は、新疆ウイグル自治区での状況について「共産党は100万人以上のウイグル人を含むイスラム教徒を強制収容所に収容し、彼らは24時間絶え間ない洗脳に耐えている。生存者によれば、中国政府による意図的なウイグル文化とイスラムの信仰の根絶だ」と述べた。共産党政府がキリスト教を迫害しているにも関わらず、中国でキリスト教徒の数が急速に増加していることも指摘した。
ポンペオ国務長官は、「中国共産党は中国国民の生活と魂を支配しようとしている。中国政府はこの会合への他国の参加を妨害しようとして。それは中国の憲法に明記された信仰の自由の保障と整合するのか」、「中国では、現代における最悪の人権危機の一つが起きている。これはまさしく今世紀の汚点である」と述べた。
そして、ペンスは「米国は現在、中国と貿易交渉を行っており、それは今後とも続くだろうが、交渉の結果がどうであれ、米国民は信仰を持って生きる中国の人々とともにあると約束する」と述べた。つまり、信教の自由と貿易交渉を引き換えにすることはないという強いメッセージを発したのである。
「信教の自由に関する閣僚級会合」というのは、世界中の信教の自由を促進することが目的であるが、この中で中国が大きく取り上げられたことの意味を過小評価すべきではないだろう。ペンスが言った通り、米国としては、信教の自由、ひいては人権と経済的利益は、究極的には取引することのできないものである。というのは、宗教の自由は、米国建国以来脈々と受け継がれてきた理念であり、DNAと言ってもよいような価値だからである。このことは、ペンスの以下のような発言からもよく分かる。
ペンスの今回の演説の冒頭には、次のような文言がある。「米国は最も初期より宗教の自由を支持してきた。米国憲法の起草者たちは、宗教の自由を米国の自由の第一に位置付けた」「我々の独立宣言は、我々の貴重な事由が、政府から与えられたものではなく、神から賦与された不可侵の権利であると宣言した。米国人は、政府の命令ではなく良心の命令に従って生きるべきだと信じている」「我々は、世界中の他の国々の宗教的自由を支持し、人権を尊重し、それにより世界中の人々の生き方をより良いものにしてきたことを誇りに思う」「自由な精神が自由な市場を作るのだ」。
トランプ政権は、人権への取り組みが弱いと非難されてきた。その批判には当たっている面が少なくない。トランプ政権は、独裁者に対して甘い傾向がある。しかし、信教の自由を前面に打ち出すとなると、トランプの重要な支持基盤の一つである宗教保守へのアピールになる。米バード大学のWalter Russell Mead教授は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に7月22日付けで掲載された論説‘Trump’s Hesitant Embrace of Human Rights’において、「チーム・トランプはアジアやその他で中国の勢力に対抗する連合を形成するうえで、米国のポピュリストと保守の支持者を団結させる必要がある。宗教の自由に焦点を当てた人権のビジョンを取り入れることは、その両面で役立つ」と指摘している。鋭い指摘である。
トランプ政権においても、宗教の自由擁護という人権問題が重視されてきていることははっきりしてきた。そうした中で、米中関係の今後がどうなっていくかは世界各国にとり、特にアジア諸国にとり、大きな関心事項である。経済問題は互恵のプラスサムの関係を築くことで、政治問題は利益をバランスさせる政治的妥協によって解決可能であるが、宗教の自由問題は深く価値観にかかわる問題であって、妥協によって解決するのが困難な問題である。
中国はウイグル問題を内政問題と整理し、内政不干渉を盾に国際的批判に対抗しようとしているが、そんな対応でやり過ごせる問題ではないのではないかと思われる。宗教の自由を重視する米国と、宗教をアヘンとみなし宗教を国家の監督下に置きたいとする共産主義の中国との対立は今後ますます深刻になる可能性が高い。今や、米中対立は、単なる覇権争いを超えて「価値観の衝突」となっている。
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