2019年7月16日―18日、米国国務省では、宗教の自由に関する国際会議が開催された。7月18日には、ポンペオ国務長官が、20分にわたる基調講演を行なった。その中で、ポンペオ長官は、「中国は、我々の時代において、最悪の人権の危機にある所の一つである。それはまさしく世紀の汚点(the stain of the century)である。」と厳しい言葉を述べた。
その前日、7月17日には、宗教弾圧を受けて逃れてきた人達がホワイト・ハウスに招かれ、トランプ大統領と面会した。中国からは4人いたが、そのうちの1人は、ウイグル族のジュワア・トティ(Jewher Tohti)さんだった。彼女のお父さん、イルハム・トティ(Ilham Tohti)さんは、教授としてウイグル族と漢族の距離を埋めようと書き物をしていたが、2017年に終身刑を受け拘留されてしまった。新疆ウイグル自治区では、150万人以上の人が強制収容所に入れられ、「再教育」という名のもと、宗教、文化、言語を奪われつつある。
最近、中国におけるウイグル弾圧、洗脳が、子供にまで及んで いることが指摘された。7月13日付の米ワシントン・ポスト紙の社説が、このウイグル問題を取り上げ、世界はもっとこのことに注意を払うべきだと論じた。正論である。
中国共産党がなぜこんなことをするのか、よく理解できない。 ウイグル人の中にイスラムを奉じるテロリストがあり得ると考えることには根拠はあるだろうが、ウイグル人百万人以上を強制収容所に入れるなど、牛刀をもって鶏を割くよりも、手段と目的がとんでもなく不均衡な話である。テロ対策としては正当化されない。
子供にまで洗脳キャンペーンをするなどに至っては、文化ジェノサイドといってもよい暴挙である。 集団に対して罰を加えるようなことは中世にはあったし、いまもヘイト・スピーチ、人種差別主義などにみられるが、前近代の遺物である。近代化を標榜する中国共産党には全く似つかわしくない。
その上、国内の少数民族政策としての同化政策は、大体失敗に終わる場合が多い。イスラムを棄教させ漢民族に同化させる試みは、イスラムが世界宗教であるから、ますます困難であろう。トルコのエルドアンは、中国のウイグル政策に理解を示したと言うが、他のイスラム教徒、イスラム教国の反発がありうる。チベット人の仏教徒との関係においてさえ、同化政策は失敗していると思われる。
中国共産党は監視の行き届いた社会をつくることを目指している。ウイグルのみならず、人権弁護士など民主化を推進する人を弾圧するなど圧政を行っている。中国は経済力でも軍事力でも米国と肩を並べるような立派な国になってきたが、こういう圧政をしていては、とても世界の指導国にはなれないし、してはならないように思われる。
こういう弾圧、圧政をしている背景は何か。大変理解に苦しむが、仮説として彼らが自らの正統性に自信を持っておらず、共産党統治が一寸油断するとひっくり返されかねないとの恐怖にとりつかれているからではないかと考えられる。天安門事件についての報道を今なおブラックアウトし、報道規制をしているのは、それが再び起こりかねない「悪夢」になっているからではないのか。
国連の第3委員会や人権理事会で、ウイグル問題について考え方を同じくする国と共同で、中国の説明を求めるなどやるべきことは多い。それがウイグル人のためにも中国のためにもなる。イスラム諸国会議にも役割がありうる。
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