2022年12月2日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年8月20日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

香港は中国の支配階級の「金庫」である

 香港は「金の卵を産むニワトリ」だけでなく、エリート階級御用達の「金庫」でもある。仏ル・フィガロ紙の記事は、中国のいわゆるエスタブリッシュメントたる支配階級やエリート層が香港に多かれ少なかれ何らかの経済的利益を有しているだけに、北京政府にとって香港問題が一層複雑化していると分析している。

 1997年の返還に先立って香港はすでに中国人富裕層の「金庫」になっていた。高官の子女や親戚などいわゆる「紅二代」は、コネクションで一部の国際銀行の香港支店に就職し、金融取引をより容易に行えるように力を行使してきた。

 香港で教鞭を執るフランス人漢学学者・中国研究家のジャン・ピエール・カベスタン(Jean-Pierre Cabestan)氏は、「多くの中国人エリートは香港に資産を保有しており、高官とその親族らは香港に不動産や、香港企業あるいは香港でコントロールする租税回避地のオフショア・カンパニーをもっている」と解説し、「香港問題の処理にあたって当局は様々な選択肢を前に、このような要素も折り込んで慎重に検討するだろう」と分析している(8月16日付け台湾中央社記事)。

 日本人にとって、オフショア・カンパニーたるものは馴染みが薄い。少し説明を加えておこう。

 「オフショア」とは、金融用語で「タックス・ヘイブン」租税回避地の同義語として用いられている。「オフショア・カンパニー」(中国語で「離岸公司」という)とは、要するに所在国(岸)から離れた場所(沖合)でよそ者同士が取引を行うための会社である。そのために、税金を取らない、あるいは少額の税金しか取らないという特典を提供する。さらに一部のオフショア・カンパニーは年度監査も求められていない。

 日本国内ではどうも「節税」やら「脱税」やらそうしたグレーなイメージしかない「オフショア・カンパニー」はあまり表に出てこないし、数少ない行政書士やコンサルタントが細々と設立代行業をやっているだけである。

 しかし、香港や中国国内では「オフショア・カンパニー設立・運営代行業」は歴然とした産業、少なくとも1つのビジネスカテゴリーである。そのなかに大手企業も存在する。たとえば、香港に本社を置くS社の場合、「1995年創立、香港や中国に複数の拠点を持ち、いずれも中国各大都市の都心部の一等地に位置し、延床総面積1万4000平米、専門コンサルタント400名超、顧客数延べ40万社(オフショア・カンパニー)」とそのウェブサイトで紹介されている。

 このS社をはじめとする「オフショア・カンパニー設立・運営代行業」は、中国国内の富裕層・資産家を顧客とし、中国人に人気なBVI(英領ヴァージン諸島)やケイマン諸島、サモア、セーシェルなどのオフショア・カンパニーの設立や銀行口座開設の業務を代行している。

 何よりも、これらの遠隔地である島に会社を作っておきながらも、銀行口座はすべて香港に開設することができるのである。香港の銀行には「オフショア・アカウント」という特別口座の分類があり、最近はマネーロンダリング関係の審査やモニタリングが徐々に厳しくなったものの、口座の運用には大きな支障が出ていないようだ。これはつまり、前出のカベスタン氏が指摘していた「香港でコントロールする租税回避地のオフショア・カンパニー」のことである。

 香港がもし金融センターの地位を失えば、オフショア・カンパニーの中国人オーナーたちはさぞかし困るだろう。因みに、シンガポールの銀行は、オフショア・カンパニーの法人口座開設に非常に厳しい姿勢を取っているようだ。

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