香港は社会主義が制御する資本主義の街だ
「香港でコントロールする」――本質的な洞察である。
「香港株式市場も好例だ。多くの中国(本土)企業が香港株式市場に上場しているが、中国当局はこれらの企業に対するコントロールを一刻も緩めていない。中国の国有企業に共産党委員会を設置する動きが香港にも広がり、当地の株式市場ではコーポレートガバナンス(企業統治)を巡る懸念が浮上した。香港株式市場に上場する中国の国有企業またはその子会社のうち少なくとも32社が2016年以降、取締役会への助言を行う党委員会を設置するために会社組織の変更提案は相次いで提出され、市場参加者の間では、これらの企業の支配権は誰が握るのか、投資家の利益のために運営されるのかなどの疑問が提起されていた」(2017年8月15日付けウォール・ストリート・ジャーナル記事)。
中国は資本主義・自由主義のシステムを、良いとこ取り的にうまく利用している。「取其精華、去其糟粕」という中国語の成語がある。「事物の最も優れた部分を取り入れ、かすの部分を取り除く(廃棄する)」という意味だ。鄧小平はあの有名な南巡講話(1992年1月~2月)中にこう語った――。
「社会主義は資本主義と比較して優位性を勝ち取るために、人類社会が創造したあらゆる文明の成果、資本主義の先進国を含む現下の世界各国の現代生産体系を反映するあらゆる先進的な経営モデルと管理方法を大胆に吸収し拝借しなければならない」
鄧小平は資本主義の自由経済メカニズムを体系的に導入するとの一言も言っていなかった。さらにいうと、元々文化や伝統の継承にあたっての取捨選択を意味する「取其精華、去其糟粕」だが、中国共産党はイデオロギーのバイブルとされているマルクス主義の理論に対しても同様な姿勢を取っていた――。
「われわれはマルクス主義の世界観と方法論を堅持しながらも、思想を解放し、事実を追求し、時とともに進み、その(マルクス主義)なかの一部の具体的な内容や観点については、新しい時代の特徴に即し、批判的に継承したり、あるいは発想豊かに発展させなければならない」(劉炳香編著『党の執政能力建設と測定評価』)
「取其精華、去其糟粕」の原則は中国の政治・経済運営の各方面に浸透している。資本主義の市場経済においてもまた然り。政府が企業や個人の経済活動に干渉せず市場の働きに任せるという意味における、いわゆる「レッセフェール」的なメカニズムは決して受け入れられるものではない。むしろ、政府が進んで市場の経済活動に介入し、コントロールしようとする。昨今の米中貿易戦争では、米政府が中国側に国有企業や特定産業への補助金削減を求めているのも、その一例である。
そうしたなかで、香港は資本主義の市場経済を基調とする国際金融センターでありながらも、中国側のコントロールもしっかりと及ぶ、この上なく便利な場所なのである。
ゆえに、「金の卵を産むニワトリ」を潰すわけにはいかない。中国政府内部あるいは共産党内に強硬派が存在しても主流ではないだろうし、習近平氏も決して武力介入派ではないはずだ。つまり繰り返しているように、ぎりぎり「最後の一線」を超えない限り、中国側が強硬介入に踏み切る可能性は非常に低いと、私が見ている。たとえ、いわゆる武力鎮圧による介入があったとしても、中国側は単独行動ではなく、香港警察の補強としてあたるだろう。実弾を使うことも想定しにくい。
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