中東を読み解く

2019年8月20日

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見捨てられたガニ政権

 大統領が言うように、タリバンを「合意」の当事者として信頼できるのかと問えば、自爆テロを繰り返し、米国と敵対してきた同組織を全面的に信用できるわけがない。「仮に合意文書に双方が調印しても、米軍が姿を消せば、容易に約束は破られるだろう。反故にされたからといって、米軍がアフガンに再び戻ってくることは考えられない」(ベイルート筋)。「合意」はあくまでも「撤退の口実」(同)にすぎない。

 米ワシントン・ポストなどによると、「合意」として伝えられている内容には重要な問題が先送りされたり、タリバン側の同意が確認されないものも多い。まず、駐留米軍の撤退に関してだが、5000人が第1陣として年内にも撤退。残りの部隊9000人は1年半かけ、来年の大統領選後までに撤退するシナリオだ。

 しかし、タリバンが1年以内の全面撤退を主張しているのに対し、テロ組織の台頭を懸念する米国は小規模の対テロ部隊を残留させることを要求し、決着が付いていない。またタリバンがアルカイダとの関係を絶縁し、テロ組織の活動を容認しないことを公式に発表するかどうかについてもあいまいなままだ。

 内戦の停戦については、タリバンは米軍との停戦については同意したものの、政府軍との停戦については明確に同意していない。何よりも停戦の日程が全く固まっていない。米側はアフガニスタン人同士の協議に委ねるとの姿勢で、事実上、合意を放棄した格好だ。

 米軍撤退後の内戦の和平協議はノルウェーのオスロで開催されることまでは決まっており、ガニ政権はタリバンとの交渉団15人の人選をすでに終えている。だが、政府との交渉を一切拒否してきたタリバン側は和平協議を行うとの言質を与えているのかどうかあいまいだ。しかも、タリバンはイスラム原理主義に基づく統治を目指しており、世俗派のガニ政権とは水と油。和平協議の先行きは悲観的だ。

 ガニ政権が9月28日に予定している大統領選挙についても、タリバンはあくまでも反対の姿勢で、米国もアフガニスタンの内政問題として、この問題から距離を置いている。タリバン側も米国との協議について、組織が一体となって賛成しているわけではない。強硬派の一部は協議を続けている指導部を“裏切者”と非難、米国との合意に従わない方針で、タリバンが内部分裂し、組織のコントロール効かなくなる恐れさえある。

 トランプ政権はタリバンとの協議を進める一方で、ガニ政権を無視する傾向を強めてきた。政権当局者は「アフガンの民主主義と平和を犠牲にした撤退」と米国を批判しているが、トランプ大統領としては、「汚職にまみれたガニ政権にかまっていては、いつまでたっても撤退できない。ガニ政権を見捨てるしかない」(ベイルート筋)と腹を決めたということだろう。

 だが、米軍なき後のアフガニスタンに明るい未来を想像するのは難しい。政府軍は米軍の訓練を受けたとはいえ、戦力と士気はタリバンの方が上回っている。待っているのは内戦の激化と、その後のタリバン支配という「イスラム原理主義国家」の創出だろう。18年間も介入し、結局見限った米国の責任は重い。

  
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