2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2019年8月20日

 アフガニスタン・カブールで発生した結婚式の自爆テロは同国が直面する暗黒の未来を浮き彫りにした。再選のため公約を最優先するトランプ大統領は来年の選挙後までにアフガン駐留軍を何が何でも撤退させる方針で、米軍の存在が消えれば、イスラム原理主義組織タリバンと政府との和平はならず、内戦の激化やテロの多発など混乱が拡大することが確実視されるからだ。

テロの現場となった結婚式場(REUTERS/AFLO)

「ホラサンのIS」が犯行声明

 それにしてもすさまじい爆発だった。8月17日夜、カーブルの結婚式の披露宴で発生した自爆テロにより63人が死亡、約200人が負傷した。事件が起きたのは午後11時ごろで、ちょうど食事が始まった時だった。1000人の招待客の1人を装った男が大きな音楽が響く中、式場の舞台近くで身に着けた爆弾を爆破させた。結婚式は少数派でシーア派教徒のハザラ人によるもので、シーア派を憎悪する犯行だった。

 事件後、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派組織「ホラサンのIS」が実行犯のパキスタン人の写真とともに、犯行声明を出した。アフガニスタンではこのところ、テロが多発。10日前にもこの結婚式場の近く警察署前で車爆弾が爆発し65人が死亡、先月末にも、政府施設でトラック爆弾と襲撃により28人が犠牲になった。今回のテロはIS系組織の犯行だったが、前2回はタリバンのテロだった。

 こうしたテロは駐留米軍撤退後のアフガニスタンの暗い未来を差し示しているかのようだ。しかし、トランプ大統領はそうした同国の内情を意に介さず、しゃにむに米軍の撤退を推し進めようとしている。その真意は、中東などの紛争地から米部隊を撤退させるという選挙公約を実現し、その実績を誇示して再選に利用したいとの政治的な思惑があるからだ。昨年、シリアからの一方的な部隊撤退を突然表明したのも同じ理由である。

 アフガニスタンには最盛期、10万人を超える米軍が駐留し、政府軍を支援し、タリバンと交戦を続けてきた。開戦から18年という「最長の戦争」により、米軍は2400人の戦死者を出し、数千億ドルの戦費を費やす結果になったが、これほどの犠牲を強いられながら、タリバンを駆逐することはできなかった。それどころか今では、国土の半分以上をタリバンに支配され、東部では「ホラサンのIS」が勢力を拡大している。

 米軍は現在、約1万4000人が駐留、主に政府軍の訓練や助言の任務に就き、一部の特殊部隊は国際テロ組織アルカイダやISなどの対テロ作戦を展開している。トランプ大統領は撤退に向けたタリバンとの協議を進めるようハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表に指示。代表はカタールのドーハで昨年10月から8月中旬までに8ラウンドに及ぶ協議を行い、「ほぼ合意に達した」(米メディア)という。

 これを受け、トランプ大統領は夏休みを取っているニュージャージー州ベッドミンスターにある自身のゴルフ場で16日、アフガン問題会議を開いた。会議には同代表の他、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官、エスパー国防長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)らが参加した。大統領は会議の後、タリバンと良い協議を行っているとしながらも、タリバンを信頼できるのかと記者団に聞かれ、「私は誰も信頼しない」と語った。


新着記事

»もっと見る