ペルシャ湾を舞台にイランと米国の対立が続く中、その水面下では石油売却をめぐって両国が熾烈な情報戦を展開、また石油密売の手口や元石油相ら4人が売却を統括している実態などが明らかになった。米紙ニューヨーク・タイムズなどが報じたものだが、イラン側の生き残り作戦が伝わってくる。
瀬取りやイラクからの偽装輸出も
イランの石油輸出は米国の制裁を受ける前は250万バレル(日量)を上回っていたが、現在は約50万バレル(同)までに激減した。それだけに、制裁下でいかに原油の輸出を増やすかが最大の課題だ。このため、販売のシステムも大幅に変更された。従来はイラン石油省とバイヤーの間を取り持つ石油輸出業者は数千人もいたが、今は“密売”を管理しやすくするため、身元の固い数十人規模にまで縮小した。
現在の売却の仕組みは次のようなものだ。石油の売却を統括するのはロスタム・ガセミ元石油相や石油省出身の元高官ら4人。担当地域も決まっていて、ガセミ元石油相はシリア、他の3人はそれぞれ、中国、インド、欧州とに分かれている。中国、インドともイランにとっては大口の売却先で、米制裁をかいくぐってイラン産原油を購入していると見られている。
イランはバイヤーに購入してもらうため、1バレル4ドル程度と、他の産油国よりも破格の安値で売却しているが、それでも各国のバイヤーがイランと取引すれば、米国市場から締め出されるという第2次制裁のリスクを恐れているため、売却先を見つけるのは相当困難になっている。
イランの売却の手口としては、イランと石油取引するタンカーが航行地点を特定されないようGPSの位置情報システムを切断したり、北朝鮮も行っているように公海上の「瀬取り」も使われている。またイラクのバスラを出港するタンカーにイラン産原油を混合し、イラク産原油として積荷目録を偽装するということも行われているようだ。
こうしたイラン側の石油の売却に関する情報は、イランに対する「最大の圧力作戦」を続けているトランプ政権にとっては喉から手が出るほど重要だ。特にイランの石油生産、輸出量、売却先と売却価格などに関する情報は、「最大の圧力作戦」がどの程度効果を上げているのか、いつになったらイランが音を上げるのかなどを見極める上で極めて貴重だ。