胡錦濤のいとこ使う露骨なやり方
「重慶は極めて特殊な土地だ。あれだけ書記の権力が絶大な地方都市はないですよ」。薄熙来と面会した外交関係者はこう感想を漏らしたが、薄熙来の支配する重慶は「独立王国」と化していた。
常務委入りのために何とか最高指導者・胡錦濤からの評価が欲しいと考えた薄熙来は「奇策」を打つ。
昨年10月6日の『重慶日報』に「胡錦星」という人物のインタビュー記事が掲載された。肩書きは上海増愛基金会理事長。実は胡錦濤のいとこである。このいとこは「重慶は全身全霊で人民のために奉仕している」と絶賛した。薄熙来の胡錦濤へのメッセージだったが、やり方が露骨すぎないか。
「休暇式治療」という名の失脚
重慶市をめぐる動向に対して激震が走ったのは今年2月2日のこと。重慶市政府が「微博」で王立軍副市長兼公安局長について同局長を解任し、教育・科学技術・環境保護など畑違いの分野を担当する副市長に配置換えすると発表したのだ。
『重慶日報』は、王が5日に重慶師範大学を視察し、自身の担当替えについて触れ、「非常に良い学習と鍛錬の機会だ」と語ったと報道。吹っ切れたかに見えたが、重慶市政府の微博が8日、こう発表すると、再びネット上はさらに強い衝撃に見舞われた。
「王立軍は長期にわたる過酷な仕事と精神面での重いプレッシャーで深刻な体調不良に陥った。現在『休暇式治療』を受けている」。「休暇式治療」とは休暇を取って治療を受けているという意味だが、事実上の失脚を意味した。
一方でこの間、重慶市政府は王立軍への「800字評価」というものを発表している。
「(王の)政治的立場はしっかりしており、大局観念は強く、責任感も強い。原則を堅持し、あえて手ごわい相手と戦い、公平に事を処理し、公正に法を行使する」とする一方、「足りないのは仕事で事を急ぎすぎることがあることだ」と記した。
腹心を切り捨て保身に走った結果…
筆者の知り合いである北京の知識人やジャーナリストらも、王立軍をめぐり一体何が起こったのかという話題で持ち切りとなった。ではこれをどう読み解くか。中国政治に詳しい中国人記者はこう解説した。
「王立軍に腐敗があることは間違いない。公安局長を解任して別の担当の副市長というのは通常あり得ない人事で、もはや薄と王の関係は良くないだろう」
つまり、信頼する腹心に汚職捜査が迫ったことを知った薄は、自分と王を結びつけてきた「打黒」を消し去るため、突然、公安局長を解いて切り捨てようとした。その一方で副市長職は残し、功績を称える評価も公にし、王を納得させようとしたが、薄の裏切りを知った王は不安定な精神状態に陥った。さらに薄側は王を休養させるということで保身に走ろうとしたという見方が立つのだ。