2022年10月6日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年2月15日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院 教授

慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。計10年の北京特派員を経て2020年から現職。ボーン・上田記念国際記者賞受賞。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。著書に『天安門ファイル』(中央公論新社)、『マオとミカド』(白水社)など多数。

噂に裏取り、「微博」発信する記者たち

 これに対して王立軍はどんな行動に出たのか―。今回の事件は、神秘に包まれた共産党内部で繰り広げられる権力闘争の内側が、「微博」によってネット市民たちが体感できるという、「政治新時代」を予感させたという点で画期的だった。噂が事実として一人歩きする危うさも確かに存在するが、「共産党の裏側で起こっている真実は何か」と突き止めようとするネット市民の努力があって、より事実が暴露されているのも事実である。

 事の始まりは7日夜、重慶に隣接する四川省の成都にある米国総領事館周辺に、数十台の警察車両が配置されるなど厳戒態勢が敷かれたことにネット市民がざわめき立ったことだった。微博では「重慶市副市長王立軍が米国の総領事館に避難を求めたが、拒否されて公安当局者に拘束され、北京に移送された」という噂が流れる。

 翌8日、噂に対して北京の米国大使館などは肯定も否定もしない。筆者は「まさか米総領事館に逃亡するはずがない」と見ていたが、8日午後にはハンドルネーム「壊壊的人」は微博に「成都米総領事館内部の情報によると、例の件については微博を信じていいよ」とつぶやく。実は調査報道で知られる『南方都市報』記者の書き込みだった。

 さらに別の南方都市報記者も微博にこう書き込む。「成都警察の匿名警察官から得た情報によると、ネット上の噂は部分的に事実だ。王立軍は成都の米総領事館で庇護を求めたが、今朝拘束され、現在は北京にいる」。後で判明するが、これは事実に近い。

 王立軍事件は政治的に敏感すぎた。中国の記者たちはいくら正確な情報をつかんでも、共産党中央宣伝部は8日午後、既に国内メディアに対して同事件の報道を控えるよう通知していた。紙面で報じられないため自分の微博で情報発信して社会に真実を知らせようとしたのだ。

搭乗記録・目撃情報、先行するネット世界

 すぐに記者のつぶやきが正確だったことが裏付けられる。翌9日早朝(北京時間)には米国務省のヌーランド報道官が、成都の総領事館員と王立軍の面会を認めるのだ。さらに9日夜には中国外務省報道官も国営新華社通信を通じてこう明かした。

 「王立軍は2月6日に駐成都米総領事館に入った。1日滞在した後、離れた。関係部門が調査している」。7日夜に厳戒態勢が敷かれたとの微博情報と公式発表がほぼ符号することが分かるだろう。

 「2月8日、成都飛北京ca4113、08:00-11:05、王立軍同飛進京的是安全部副部長邱進」。微博ではこんな情報も流れた。

 つまり8日午前8時、成都発北京行きの中国国際航空4113便で、王立軍を連行するため北京に同行するのは国家安全省の邱進次官、という機密情報だが、ネットでは搭乗記録現物の写真や王らの身分証番号まで暴露される。

 さらに10日夜には、北京首都空港の貴賓室で、知り合いの重慶市の黄奇帆市長と偶然会ったという人物が微博に「重々しい表情の市長は北京に来て事をこなし、急いで帰っていったようだ」と書き込んだ。

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