高額所得者の間で「富裕税」支持者が拡大
一方、これとは別に、アメリカの名だたる億万長者たちの間からは、大きな社会問題となりつつある所得格差是正や環境保護などのために、一定以上の高額所得者層に対する「富裕税」新設を求める声が上がり始めている。
国際的な投資家ジョージ・ソロス、ウォールト・ディズニー財団のアビゲイル・ディズニー、「フェイスブック」共同創始者クリス・ヒューズ各氏らアメリカを代表する富豪家19人は去る6月24日、共同署名した「公開状」をネット上で発表、「新たなる税収の次のステップは中間所得、低所得のアメリカ国民からではなく、資金面で最も恵まれた階層から来るべきである」として、来年の大統領選挙を念頭に民主、共和の党派を問わず全候補向けに「富裕税」の新設を提唱した。
「公開状」は、
- アメリカはわれわれの資産にさらに税金を課す道徳的、倫理的、経済的責任があり、「富裕税」は気候変動対策、経済改善、国民の健康改善に資することになり、ひいては民主主義とデモクラシーの強化につながる
- 提案では、われわれの資産のうち5000万ドルまでを非課税とし、それ以上の資産に対し1ドル当たり2セントを、10億ドル以上の資産に対しては1ドル当たり1セントを課税する
- この新たな課税により向こう10年間で3兆ドルの税収を生み出すと推定される
- 新課税措置はアメリカの最富裕ファミリーの中のわずか7万5000人を対象とすることになるが、そこから得られる収入によって、クリーン・エネルギー開発、国民皆保険創設、学生ローン軽減、インフラ整備、低所得者層向けの税控除を支援することが期待される
などと述べている。「タイム」誌の報道によると、こうした大胆な提案は過去にも一部の富裕資産家から出されたことがあるが、所得ではなく資産に対する連邦政府による新課税は合衆国憲法で明記されていないことから、反対グループによる「違憲」訴訟の可能性も指摘されており、これまで実を結ぶまでには至らなかったという。
しかしその後、高額所得者の間で「富裕税」支持者が拡大しつつある。
CNBCテレビは去る6月12日、年収5000万ドル以上の高所得者を対象に意識調査を実施した結果、回答者のうち60%が「富裕税」の新設を支持した、と報じた。また、年収500万ドル以上の階層では「全回答者の3分の2」が支持表明したという。
こうした流れを受けて、来年大統領選の候補者の中にはすでに「富裕税」新設を選挙スローガンとして前面に打ち出す候補も少なくない。
最も意欲を見せているのが、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)だ。
ウォーレン議員は去る1月、「超富裕者税(ultra millionaire tax)」と銘打った課税構想を発表、5000万ドル以上のすべての個人資産に対し毎年2%を、10億ドルを超す資産に対しては1ドル当たり3%の課税する考えを明らかにした。
カリフォルニア大学バークレー校のガブリエル・ザックマン経済学部教授の試算によると、この構想が実現した場合、全米家庭の0.1%に当たる7万5000世帯が新たな課税対象となり、今後10年間で2兆7500万ドルの増収が期待できるという。
こうした「富裕税」構想についてはその後、具体的内容は異なるものの、バーニー・サンダース、ベト・オルーク、ピート・ブティジェッジ各候補らも遊説先の演説でたびたび言及しており、今後、スーパー・リッチを自認する共和党のトランプ大統領相手に有権者を巻き込み、さらに白熱した議論が展開されていくものとみられる。
ただ、問われるのは、大企業経営者による「社会責任への回帰」が来年に向けたたんなる政治PRに終わるのか、それとも将来を見据えた企業カルチャーの変革につながるかどうかだろう。
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