2024年11月23日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年10月1日

内部告発状とトランプの反撃

 9ページの内部告発状には、トランプ大統領が「大統領の権限を利用して、2020年米大統領選挙で外国政府から介入を得ようとしている」という情報を複数の政府職員から受け取ったと記述されています。トランプ大統領とゼレンスキー大統領の通話記録は、「国家安全保障会議が直接管理するコンピューターシステムに移行された」とも記されています。

 内部告発状によれば、このコンピューターシステムは「秘密工作など暗号で保護さており、他のコンピューターシステムとは接続されていないもの」です。従って、セキュリティが極めて厳重なシステムに移したということです。これに関して、ホワイトハウスが「隠蔽工作をしたのではないか」という疑惑が浮上しています。

 この内部告発状の中で最も注目すべき点は、上記の出来事が「初めてではない」という記述です。トランプ政権では安全保障上の機密情報ではなくても、政治的にデリケートな情報であれば、厳重なデータベースに移していたというのです。つまり、過去にもトランプ大統領と外国首脳との通話記録が厳重な機密用のデータベースに保存されていたということになります。

 内部告発状のこの記述を読んだとき、筆者の頭に即座に浮かんだのが、トランプ大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子の電話会談です。ジャーナリストのカショギ氏殺害に関与したとみられているムハンマド皇太子との通話記録も厳重なデータベースに保存されている可能性は否定できません。正に政治的にデリケートな情報だからです。

 次に脳裏をかすめたのが電話会談を重ねているトランプ大統領と安倍晋三首相の会話です。電話会談の際中に、トランプ大統領が日米貿易交渉に関して「圧力」をかけたとしてもまったく不思議ではありません。仮にそうであれば、日米の首脳同士の通話記録も機密用のデータベースに移行されたかもしれません。

 話を戻しましょう。告発文に関して、トランプ大統領は内部告発者の情報がホワイトハウス職員からの又聞きであり、「不正確だと証明された」と自身のツイッターに投稿しました。

 SNS上では、トランプ大統領は「私は沼の水を抜いている(ワシントンにいる腐敗した人物を追放しようと戦っている)」という広告の中で、バイデン氏、ナンシー・ペロシ下院議長や米CNN及びMCNBCなど、フェイク(偽)ニュースとレッテルを貼っているメディアのレポーターや司会者の映像を流しています。

 以前紹介しましたが、トランプ大統領は腐敗したエスタブリッシュメント(既存の支配層)を「沼(スワンプ)」と呼んでいます。「ウクライナ疑惑」を追及する彼らを沼に喩えて反撃に出ました。

 加えて、上院で弾劾裁判が開催されることを想定して、同院の共和党議員にさらなる団結を求めています。たとえ、下院で弾劾訴追議決が成立しても、上院の3分の2が弾劾に賛成票を投じなければ、大統領罷免を免れることができるからです。

外国政府の役割

 では今回の「ウクライナ疑惑」と「ロシア疑惑」はどこがどう類似しているのでしょうか。またどの点で相違しているのでしょうか。

 まず類似点から見ていきましょう。2つの疑惑は「外国政府による米大統領選挙介入」という点で一致しています。ロシア政府とウクライナ政府による「選挙介入」が共通項です。

 2016年米大統領選挙では、ロシア政府がトランプ大統領のライバルであったヒラリー・クリントン元国務長官を傷つける情報をSNS上にばらまき、同大統領の選挙を助けました。今回は、ウクライナ政府から民主党候補指名争いの最有力候補であるバイデン前副大統領に不利な情報を得て、2020年米大統領選挙選挙で有利に戦おうというトランプ大統領の意図がはっきり通話記録から見えます。


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