2024年12月8日(日)

中東を読み解く

2019年10月3日

奏功したイランの“軍事的賭け”

 サウジアラビア政府がイランとの対話路線に踏み切ったとすれば、それはイランの“軍事的賭け”が奏功したことを意味するものだ。先月14日のサウジの石油施設への攻撃はイエメンのフーシが実行声明を出して成果を誇った。だが、高性能の無人機と巡航ミサイルの組み合わせによる精緻な攻撃をフーシの仕業とするには無理がある。

 「イランの犯行」(ポンペオ国務長官)とまではいかなくても「イランに責任がある」(英仏独共同声明)可能性が強い。同誌はイランの支援を受けたイラクの民兵組織による攻撃と報じているが、「イラン革命防衛隊から援助を受けた武装勢力の攻撃という可能性が最も高い」(ベイルート筋)だろう。

 イランの最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領ら指導部が関与していたかどうかは別にして、この“軍事的賭け”により、アブカイクにある世界最大級の石油処理施設が損傷を受け、サウジの石油生産の半分が停止してしまった。石油価格が急上昇して世界経済が動揺すると同時に、米国製のパトリオット迎撃システムによって守られていたサウジ防空網の脆弱ぶりが白日の下にさらされることになった。

 サルマン国王やムハンマド皇太子らサウジの指導層の衝撃は想像に難くない。イランと軍事対決することの意味を心底思い知らされたことだろう。つまり、ペルシャ湾での戦争に勝者はなく、イランが主張するように「イランにちょっかいを出せば、ペルシャ湾全体の戦争になる」(ザリフ外相)ことをまざまざと見せつけられたからだ。

 「いたずらに軍事的な緊張を高めるのは得策ではない。和解する必要もないが、対話路線を模索する方向に舵を切ったとイランに思わせた方がいい」(ベイルート筋)。サウジの指導層がこのように考えても不思議ではない。その背景に対米不信感が芽生え始めていることも指摘できるのではないか。


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