2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2019年10月17日

台風予報で備えるも…

 東松山市から南へ車を走らせること約30分。再び風景が一変し、道路が泥で覆われ始める。越辺川の堤防が約70メートルにわたって決壊し、約19平方キロメートルが浸水した川越市だ。この地域もすでに排水は終わっており、住民らは泥まみれになった畳や、水につかり動かなくなった電子レンジを悲痛な面持ちで運び出す。中には、写真やアルバムといった思い出の品を庭に干す家庭もあった。

道端の草木は、浸水があった高さまで泥がついている

 浸水した地区に56年前に越してきた女性は「川近くの田んぼは浸水することがよくあったので、自宅にいた。大きな氾濫だったから、13日の昼間に避難しようとしたが、同じように避難所へ行く車の渋滞で避難できなかった」と想定外の状況を振り返る。

 風水害は住民の予想をはるかに超えるもので、多くの人の”備え”が利かなかった。同地区の町工場では、浸水に備え、機械を台に乗せるなどしてかさ上げをしていた。しかし、氾濫した川からの水はそれを上回る高さに達した。「ほとんどの機器が沈んでしまい、もう使えない。取り換えるには、1億円以上かかってしまうだろう」と町工場の社長である男性は嘆く。工場は休業せざるを得ず、再開には1カ月以上を要する見込みだ。

被害を受けた巣箱を片付ける横山さん

 浸水した畑で養蜂業を営む横山恵次さん(75歳)は、強い雨風に飛ばされないように、巣箱をいつもより頑丈に固定していた。水はけが悪く、強い雨の時は1メートルほどの高さまで水がたまる土地のため、巣箱は普段からコンテナの上という高い位置に置いていた。それでも、9つの巣箱のうち、6つが流されてしまった。

「テレビの航空映像で見たら、4メートルある屋根が見えなくなっていた。おそらくひっくり返されてしまったのだろう」と横山さんは話す。流されなかった巣箱も、蓋を閉めていたため、ハチが出られず、水没。中には水がたまり、多くの死骸が箱にへばりつく。それぞれの巣箱には、6000~7000匹の蜂が入っていた。「かわいそうなことをしたな」と声を落とす。

 「養蜂用に借りられる場所も限られているので、こうした災害はしょうがない。でも、できるなら川に近いところには置きたくないね」と悔しさをにじませる。

 避難に加え、事前に考えられる対策を行うものの、それを上回る規模で襲い掛かった台風19号。その爪痕の大きさは、脇目もふらず泥の排出に追われる住民の姿に表れている。

  
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