2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2019年10月17日

 日本列島を襲った台風19号は、各地で河川の堤防を決壊させ、甚大な被害を及ぼした。埼玉県では、東松山市や川越市で広い範囲の浸水が起きた。排水が終わり、避難所から帰ってきた住民たちは家の中に入った泥のかき出しや汚れた家財の運び出しに追われている。想定を超える被害の大きさに戸惑いを隠せない。

堤防決壊で広い範囲で浸水が起きた埼玉県東松山市

2階の高さまで浸水した東松山

 都心から車で1時間ほど、東武東上線高坂駅から東に1.5キロほどの場所にある埼玉県東松山市早俣地区。都幾川と越辺川、九十九川の合流部が近くなると、その風景は一変する。道は一面泥だらけ、道路脇にある草花も茶色に覆われる。道を歩くと、泥がぬかるみ、気を付けないと足場をとられる。堤防決壊により、辺り一帯が水浸しになった地域だ。数キロ手前では、道路で車が走り、飲食店や小売店が営業する〝普段通りの生活〟が繰り広げられており、浸水した地域との差は歴然だ。

 「一時は建物の2階辺りまで水がきていた」。住民の男性は振り返る。

 東松山市では、台風が上陸した12日午前4時6分に大雨警報、午前7時24分に洪水警報が発令された。午後2時45分に同地区で避難勧告が出された。ほとんどの地域住民は、この日のうちに避難する。地区の消防団員が逃げ遅れた人がいないかも見て回っていたという。

 台風から一夜明けた13日午前7時15分、同地区近くの都幾川の右岸堤防が100メートルにわたって決壊。約1.6平方キロメートルにわたって浸水が起きた。住宅が水の中という信じられない事態で、12日は自宅2階へ逃げていた人も、ボートで続々と救助された。

軽自動車は屋根の上にまで泥をかぶり、被害の大きさを物語る

 「この一帯は田んぼなど自然の遊水池なので、昔からひざ下あたりまで水がきたことはあったが、ここまで高い位置まで浸水したのはなかった」と、この地区で自動車整備工場を30年以上営む男性(63歳)は驚きを隠せない。自宅1階部分と作業場にしていたガレージはともに水浸しに。自動車整備に使う機械や道具はすべて壊れてしまった。「いつ仕事が再開できるかわからない。まずは片付けてみないと」と肩を落とす。

 都幾川の堤防沿いに住む内田早苗さん(44歳)宅は、2階へ行く階段の上から5段目までが水にどっぷりつかった。12日は、高台にある友人宅に避難し、台風が過ぎ去った13日朝に、車で帰ろうとしても、通行止めになっていた。まだ水が引いていなかった。昼過ぎにもう一度行くも、状況は変わらない。夕方に、近くのスーパーマーケット駐車場に車を止めて、歩いて自宅へ行った。

 1階にあった電化製品や家具はすべて使い物にならない状態。電気も通らない日々だ。今は2階で懐中電灯に明かりを灯しながら、パンなど簡単に食べられるもので寝泊りしている。「ボランティアの方々に片づけを手伝ってもらっているけど、先が見えない。今後の生活もどうなるのか」と声を詰まらせる。15年ほど前に建てた自宅でまた生活できる見通しはたっていない。


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