続々と気象災害が日本を襲い、大きな被害が各地で出ている。その中で、1人の気象庁研究官が「雲研究者」を名乗り、SNSを用いた市民参加型のプロジェクトを行って、新たな防災へのアプローチを試みている。
日本は毎年の様に大きな気象災害に見舞われている。そうした中、市民の防災リテラシーの向上に取り組むのが荒木健太郎だ。
荒木は気象庁の研究者として、以前から防災情報の活用を促すための講演を行ってきた。しかし、これまでの気象災害では、発生前に現地で講演を行っていても、「まさか本当に起こると思ってなかった」と被災者に何度も言われた。
また、大雨を降らす積乱雲などは局地的に短時間で発生し、現在の科学技術では事前に予測できないこともある。
「いかに普段から空を見上げ、異変を察知し、自らのコミュニティにそれを伝えることができる人を増やせるかが大切だと思います。私はそれから、雲研究者を名乗り、『感天望気』という造語を広めています」
「感天望気」とは、普段からさまざまな表情を見せる雲を見て、感じて、楽しみながら天気の変化を予想し、雲と付き合うことを意味する。そこで荒木が始めたのが「♯関東雪結晶プロジェクト」だ。「物理学者の中谷宇吉郎は『雪は天から送られた手紙である』と表現しました。雪の形状や降った地点などを分析すると、それを降らせたのがどんな雲かが分かります」。
市民に雪結晶をスマホカメラで撮影してもらい、撮影地点・時刻と一緒にSNSでその画像を投稿してもらう。雪結晶画像は見た目が美しいことから、「インスタ映え」などSNSでの評価も受けやすい。徐々に人気が高まり、18年1月22日の首都圏大雪の時には1日で数万枚を超える画像が集まった。現在は、スマホ用のアプリで情報収集を行っている。
こうした取り組みは荒木の研究にも良い効果をもたらしている。「これまで、各気象台の屋上などの特定地点や、航空機などを用いて限られた時間しか観測できなかった雪のデータを、広く細かく集めることが可能になりました」。
今後の目標はさらに「雲友」、そして「感天望気」のできる人々を増やすことだ。
「雲を楽しむうちに空の異変に気づく人も増え、楽しむために気象情報も扱えるようになります。研究も進み、結果的に災害被害はもっと減らせると信じています」
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