アルカイダとの統合を協議か
意外だったのは、潜伏先がシリア北西部のイドリブ県だったことだ。壊滅される前のISの支配地はシリア北東部からイラク北部にまたがっており、バグダディが潜伏しているとすれば、シリアとイラクの国境地帯の可能性が高いと見られていたからだ。しかもイドリブ県は、ISとはけんか状態にあった国際テロ組織アルカイダ系の「シリア解放委員会」(旧ヌスラ戦線)の根城である。
イドリブ県は、シリア反政府勢力の最後の拠点だ。「シリア解放委員会」は「自由シリア軍」などの反政府勢力と混在する形で、約3万人の武装勢力を保持していると見られている。バグダディはそうしたアルカイダの支配地に潜伏していたわけで、アナリストは「壊滅状態のISとアルカイダの統合の話を協議するためだったのではないか」と指摘している。
ISの首都ラッカが陥落した後、逃亡したIS戦闘員の一部が「シリア解放委員会」に合流しており、バグダディが組織的な統合を図ろうとした可能性は十分あり得る。特に、シリアのアルカイダ系組織の中で、最も危険だとされる「フラス・アルディン」という謎の組織の存在が浮上している点も懸念の的だ。
同組織は、元々はアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側への攻撃を画策するためシリアに送り込んだものとされる。米国が小規模ながら最も危険なテロ組織として警戒していた「ホラサン・グループ」の後継で、2018年初めに「フラス・アルディン」に変わった、という。この組織がISと接触しているとすれば、「極めて深刻な事態」(アナリスト)と言わざるを得ない。
バグダディ亡き後、ISは誰が指導していくのか。ほとんどの幹部は米軍などに殺害されて残っていない。唯一名前が知られているのは、ISの公式スポークスマンとされるアブ・ハッサン・ムハジールという人物だが、その実態は全く不明だ。トランプ大統領は「バグダディの死亡で世界はより安全になった」と宣言したが、バグダディが示した「カリフの府」の過激な思想は中東から、アフリカやアジアにまで急速に拡散を続けている。
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