日本の場合、外国人の不動産取得に制限はない。多くの国で外国人の土地取得を禁止・制限する例があるが、日本では原則自由だ。さらに精緻な土地登記制度によって所有権が公的に証明されることも、財産を保全したい外国人にとっては魅力的なのだ。
金融取引においても日本の信用力は高い。証券会社には顧客の資産を証券会社の資産とは分離して保管しなければいけないことが義務付けられている。仮に証券会社が倒産しても、顧客の資産は基本的に毀損しない建前だ。日本や先進国では当たり前と思われている制度だが、発展途上国ではそれすら怪しい。預けた資金がいつの間にか消えているなんてことが有り得るのだ。
その信用を活かして、どうやって世界から資金を集めるか。
答えは日本をアジアの金融ハブにする戦略を明確に打ち出して、そのための制度整備を急ぐことだろう。金融ハブ、つまり中継地である。アジアの富裕層から資金を預かりそれを世界に投資するのだ。もちろん、日本の富裕層の資金も扱う。海外への投資だけでなく、日本の成長産業にも資金を投じる。
外国から資金を集める際に、円高はむしろ武器になる。仮に外国人投資家が日本の金融機関に円建てで資金を預けたとしよう。円が弱くなると自国通貨に戻した時に受け取り額が小さくなってしまう。世界を駆け巡る投資資金の多くは強い通貨を持つ国に集まるのが普通なのだ。
金融担当大臣に外国人を起用しては?
最大の問題は、金融ハブを支える人材が育っていないことだろう。2月に発覚したAIJ投資顧問が運用を受託していた年金基金約の2000億円が“消失”した問題は世の中に衝撃を与えた。運用を受託していた投資顧問のいい加減さに加え、運用のプロであるはずの年金基金の理事らの対応の甘さが表面化した。当局の規制のあり方にも大きな課題がある実態を炙り出した。
投資顧問業界の幹部は「これをきっかけにリスクを取った運用はするな、というムードが強まるのではないか」と懸念する。本来は、騙したり騙されたりしないような資産運用のプロを大量に育てるべきなのではないか、というのだ。つまり、AIJ問題は日本が金融産業を支える人材を育てて来なかったツケだと見ることもできる。
「産業から得た財産ですから産業の成長のために再投資するのは当然」
かつて筆者が取材したフランスの自動車大手プジョーの創業家一族であるロベール・プジョー氏はそう語っていた。一家の莫大な財産はもっぱら株式投資に回し、国債での運用は原則やらない。「国債での運用こそがカネにカネを生ませることではないのか」と言っていた。プジョー家は企業の発行済株式の2~3割を取得する一方で、取締役1人を送り込んで経営をチェックする。それこそが産業人として成功した一族の責任だというのである。
残念ながら日本の金融機関は資産運用に力点を置いて来なかった。銀行の場合、預金を集めることが仕事だという伝統的な考え方が色濃い。預かった資産を投資したり、運用したりすることにはリスクが伴うため、ともすると腰が引けてきたのだ。不祥事が起きるたびに内部のコンプライアンス(法令遵守)が繰り返し強調されてきたこともリスク回避の風土を作り上げた。銀行の運用先が一見リスクがない国債の大量保有に向いてきたのはこのためだ。
日本の資産運用の世界に優秀な人材がいないなら、海外から人材を連れてくるべきだろう。今の円高ならば、円建ての給料は外国人に魅力的に映るはずだ。ファンド・マネジャーやCIO(最高投資責任者)だけでなく、銀行の経営者も外国人で構わない。ただし日本の利益を損なわないように株主が経営者に目を光らせるコーポレート・ガバナンスをきちんと整備すればよい。いっその事、金融担当大臣も外国人にして、日本の金融制度を国際的に競争できるレベルにまで一気に変えてしまうのも手かもしれない。
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