Washington Files

2019年12月2日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 その理由について、大統領は2017年6月演説の中で以下の点を列挙した:

  1. 「協定残留によって米国は巨額のコストを負担することになる」
  2. 「協定は他国に利益をもたらす一方、米国の労働者に不利益を強いることになる」
  3. 「これまで途上国の温暖化対策支援によって、米国の富が持ち出されてきた」
  4. 「他国が米国に協定残留を求めるのは、自国の経済優位性を得るためだ」
  5. 「中国の温室効果ガス排出増やインドの石炭増産は認められており、不公平だ」

 しかし、もともと虚言癖で知られるトランプ氏のこととはいえ、これらの指摘の中には、誇張や事実と異なるものが少なくない。

 まず、「米国の経済コスト」について、大統領は協定残留によって「GDP比3兆ドル分の損失」と述べたが、実際はその逆であり、離脱し続けた場合、山火事、河川氾濫、大気汚染による健康被害、環境汚染防止対策などに関連する出費がかさみ、2100年時点でGDPを5%押し下げるとの専門家の試算がある。

 大統領は協定残留が、米国の労働者とくに石炭産業の雇用喪失をもたらすと述べたが、石炭産業はとっくに衰退の一途をたどっており、かつて100万人近くいた炭鉱労働者は20分の1近くにまで激減。対照的に、再生エネルギー産業の雇用は急速に拡大しつつあり、太陽光、風力エネルギー関連の雇用者だけでも全米で77万人に達している。

 「温暖化対策支援」についても、「パリ協定」は「京都議定書」とは異なり、各国の貢献を具体的に義務付けておらず、排気ガス削減目標についても、参加国がそれぞれ独自の判断で可能な範囲で努力することになっている。米国だけが不利な立場に置かれているとの指摘は、事実と異なる。

 また、中国はすでに、二酸化炭素排出量がピークに達するとみられる2030年をめどに石炭依存の火力発電を段階的にフェーズアウトしていく方針を明らかにしているほか、インドでも火力発電所の新規建設が凍結されつつある。

伝統産業死守の色彩

 このように全体として見た場合、協定離脱にこだわるトランプ氏の姿勢は、技術革新やリスク投資で拡大してきた本来の未来志向型アメリカ経済に背を向け、“煙突産業”に象徴される過去の伝統産業死守の色彩を濃くしたものだ。

 米経済界の大勢が、パリ協定残留の姿勢を打ち出しているのと好対照といえる。

 とくに産業界が懸念するのは、今後協定離脱によって、国際エネルギー政策の主導権を中国に明け渡すことになりかねない点だ。

 中国はすでに今日、風力および太陽エネルギーの世界最大生産国であり、グリーン・エネルギー関連事業に対する最大投資国となっている。世界の大手太陽エネルギー・メーカーのうちトップ5社が中国で占められ、世界最大規模の風力タービン・メーカーも中国国内で稼働中だ。

 一方の米国経済も、トランプ政権発足前までは再生エネルギーへの依存度を高めてきた。たとえば、グリーン・エネルギー関連産業の雇用者数はすでに化石燃料分野の約3倍に達しており、太陽エネルギー関連だけでも、全米で就業者数は炭鉱労働者の2倍以上にまで拡大している。

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