Washington Files

2019年12月2日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

石炭産業自体の衰退傾向にブレーキがかかる見通しは皆無

 また、世界銀行の下部機関「国際金融公社」(IFC)の試算によると、気候変動関連の新規ビジネス投資価値は、今後2030年までの間に、発展途上国市場だけでも23兆ドルを突破すると見込まれている。

 とくに中国は昨年、米国、EU、インド、カナダ、インド、日本、韓国およびブラジル各国における風力、太陽エネルギー関連施設の設置総数を単独で上回るなど気候変動対策に力を入れている。さらに今後は米国のパリ協定離脱により、中国は欧州各国関連産業との連携拡大に乗り出していくのは必至の情勢だ。米国経済だけが、世界の環境ビジネスから取り残される恐れがある。

 それでもトランプ大統領が協定離脱にこだわるのは、来年大統領選での再選戦略をにらんでいるからに他ならない。

 筆者は昨年7月掲載の本欄で、トランプ政権の反環境主義についてより具体的に論じた(2018年7月17日付け『アメリカの環境保護庁は「環境破壊庁」なのか?』参照)。

 とくに同政権が発足以来、力を入れてきたのが、環境保護関連の規制撤廃・緩和であり、石油、石炭その他の新規開発や鉱山掘削拡大だった。これらの関連産業は2016年大統領選の勝敗を決するカギとなったミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニア、オハイオといった中西部の閑村地帯に集中しており、ウクライナ疑惑追及などで来年選挙では前回以上に苦戦が予想されるトランプ陣営にとっては、一段と重要な票田となりつつあるからだ。

 ところがその石炭産業自体、今後も衰退傾向にブレーキがかかる見通しは皆無に等しい。

 連邦エネルギー情報庁(US Energy Information Administration)によると、2019年度の石炭生産量は前年比10%減となる見込みで、来年はさらに減産は避けられず、過去5年間の生産量全体では実に27%マイナスという低迷に追い込まれる。

 また、労働省統計では、昨年度の石炭関連労働者は全米でわずかに5万3000人にまで減少した。過去10年間では3万4000人が失職したことになる。

 英ガーディアン紙が最近報じた、石炭生産州ウェストバージニア州からの現地リポートによると、炭鉱労働者のうち50代、60代の男性たちの多くは、パリ協定離脱を決定したトランプ大統領を支持する反面、若手の労働者たちは「石炭時代は終わりに近づいている」と割り切っており、代替エネルギー開発にシフトすべきとする声が少なくないという。炭鉱州のトランプ支持は“一枚岩”でなくなりつつあるのだ。

 果たして、経済界や都市生活者たちの多くを敵に回したトランプ大統領の環境問題をめぐる再選戦略が、どこまで効を奏することになるのか、大きな賭けであることには違いない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る