2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2012年5月4日

 民主党は、自分たちが政権に就けば16.8兆円の無駄を削減し、子ども手当、高校無償化、農家戸別所得補償、高速道路無償化などの新規施策を増税なしに実現できるとマニフェストを掲げて大勝し、09年9月に政権に就いた。私は、財政赤字を縮小しなければならないし、高齢化で社会保障支出も増大していくのだから、16兆円などひねり出せないし、マニフェストの全面実現は到底無理だが、半分くらいはできるかもしれないと思っていた。国民も、自民党に飽きたから、話半分でも良いと思って民主党に投票したのだろう。

 しかし、民主党が政権に就いてみると、税収の激減と大盤振る舞いがされた後だった。民主党はすぐさま、この状況を国民に説明すれば良かったのだが、そこは素人の悲しさ、マニフェストが実現できるようなことを言って国民の失望を招いた。しかし、平常時でも無理なのに、税収減12.3兆円、大盤振る舞い19.2兆円の後に16.8兆円もひねり出せる訳がない。

 自民党が政権から落ちるのは当然に予想されていた。城が落ちるのに武器弾薬、軍用金を残しておくのは愚かである。最後の自民党政権は、見事に焦土作戦を貫いたとしか言いようがない。

財政の真実を公表し

国民の支持を得よ

 民主党内閣は消費税増税を主張しているが、これも実は焦土作戦である。増税して、その分を将来のために残しておく訳ではない。増税して、というよりも、将来増税するからと言って、その分を今の社会保障の充実などに充ててしまうという案である。

 増税するのは、自民党が政権に就いてからだし、自民党内閣の時代にも進む高齢化によって、増税分はなくなってしまう(もっとも、「大阪維新の会」の躍進によっては、自民党が返り咲けるかどうか分からないが)。自民党も、政権に就いて4年を待たずして、さらに増税を進めるしかない状況に追い込まれる。これは財政専門家の常識だ。

 早稲田大学ファイナンス総合研究所の野口悠紀雄顧問も、消費税を5%引き上げても、国債発行額は2年間で元に戻ってしまうと指摘している(『消費税増税では財政再建できない』第1章1、ダイヤモンド社、12年)。

 政治は策略である。麻生内閣も野田内閣も、見事に策略を弄んでいる。しかし、策略を続けていても何も解決しない。民主党は、次期自民党内閣が消費税増税分を使い切り、さらなる増税に追い込まれるのを予測して、その時に、攻勢をかけようという長期的策略を考えているのだろう。しかし、高齢化による社会保障費の増大と生産年齢人口の減少は、策略を超えた事実である。むしろ、率直に、事態の深刻さを訴えることが国民に見捨てられない大策略となることを考えるべきだ。

 先月号の本誌に書いたように、高齢化率がピークになる2060年には60%の消費税増税が必要になる(「年金議論を避けるな」本誌12年3月号)。これは人口の高齢化から当然に出てくる数字である。

 民主党が、お気に入りの学者や官僚に同様の試算を依頼しても、嘘をつかない限り、大きくは変わらないはずである。この数字を示せば、自民党も数字を出すしかなくなる。ではどうしたら良いのか、国民が真剣に考えるしかない状況を作れば、自民党に戻せばうまくいく訳でもないと分かる。政治は策略であるが、本来は、大策略をなすものである。

 60年までのことを考えれば、高齢化は政府や政党に任せておける問題ではなく、国民自らが考えなければならない問題だと、国民は必ず理解してくれると私は思う。そしてそれこそが、政党が国民に捨てられない最良の方策である。

◆WEDGE2012年4月号より

 

 

 

 

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