世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年2月18日

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 今回、武漢から発生した新型コロナウイルスの感染拡大に対する中国の対応を通じ、中国共産党独裁体制の弱点が露呈した。今年に入り、武漢等都市の閉鎖や、急ピッチの新病院建設等の感染症拡大阻止の措置が取られたが、昨年、新型コロナウイルスが発生し、その危険性が指摘された時には、警告を発した医師らが逮捕されたり、情報の隠蔽がなされたりした。その結果、新型コロナウィルスの拡大は、武漢から湖北省の他の都市へ、さらに湖北省から他の中国全土にわたる省へ、そして世界へと感染が拡大して行った。この感染拡大の主な原因の一つが、初期対応のまずさ、情報隠蔽等、中国共産党体制の弱点から来るものだった。

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 これについては、多くの者が指摘をしているが、2月5日付の米ワシントン・ポスト紙では、コラムニストであるイグネイシャスが、上海駐在員へのインタビュー等を通じ、中国人でさえ共産党の統計や情報を信じていないことを挙げ、今回の新型コロナウィルスの状況によっては、中国の歴史を鑑みると、政権がつまづく可能性さえあると述べている。

 中国の党・政府による情報統制、隠ぺい、情報を公開する者の拘束、人権抑圧など、今回の新型コロナウィルスの件で、国家秘密主義の事例が続々と明らかになっているが、もし、12 月上旬の感染発覚後の初動の一か月の間に、隔離や武漢在住者の移動の規制をしていれば、感染の拡大、特に海外への拡大はもっと阻止できた可能性は高いだろう。感染者は約一か月自由に移動していたことになる。情報統制・管理は、独裁政権の基本的性格であり、この場合、大変問題になった。 

 その後、新型コロナウィルスの感染拡大とともに、中国は独裁政権特有の大胆な措置をとった。病院の突貫建設、交通路の遮断、武漢等の隔離、企業閉鎖、海外団体旅行の禁止、旧正月の延長などが、そうである。その大胆さには驚くが、それ故中国の対応の基本的な問題点が相殺されるということではない。 逆に、それだけ事態を深刻化してしまったことの証である。

 WHO(世界保健機関)の緊急事態宣言も遅きに失したものだったのではないか。1月22、23日の第一回会議の結論では、緊急事態宣言を出さなかった。その発表文を読んでも、中国の努力は強調されているが、なぜ宣言を早く出さないのかは 良く分からなかった。中国の圧力があったのではないかとの思いが 起こるのも当然だ。実際、会議では、中国代表が宣言発出に強く反対し、中国の友邦国代表もそれを支持し、激しい議論になったと言われる。 その後、WHOのテドロス事務局長(元エチオピア保健相、外相)が中国を訪問した。1月28日には習近平主席と会談し、そこで習近平は、「中国共産党の強力な指導の下で、中国の特色ある社会主義の優位を十分に発揮し、感染症との阻止戦に勝利する完全な自信がある」と述べたという。これは感染阻止というよりも高圧的な政治的発言に聞こえる。習政権にとっては最大の危機だということは分かるが、習政権がWHOや国際社会と協力して、如何に新型コロナウィルスの封じ込みをするかが見えてこない。WHOは漸く1月30日に緊急事態宣言を出した。が、事務局長の中国寄りの発言は、その後も続いている。WHOに問題があるのか、中国が必要な情報を提供してこなかったことが問題なのか、いずれ事後にWHOは検証し必要な措置をとるべきであろう。 

 今回の経験を通じて、中国が教訓を学び、振る舞いを変えていく ことが望まれる。グローバル時代の感染症対策には、国際協調、国際協力が不可欠であり、真の意味での国際協力をしていくことを学ぶことが期待される。また国際機関との付き合い方も学んで欲しいものだ。国力増大に見合う支援や役割の拡大は良いが、それを梃子とする国際機関への過度、不当な影響力行使は止めるべきだろう。もっと規律のある国際機関との付き合い方に変えてもらわねばならない。 特に、WHOという、人類の未来にも関わる人の健康問題を扱う国際機関に、不必要な政治的問題を持ち込むべきではないだろう。2003年のSARS以来、現在もそうであるが、台湾がWHOの正式メンバーでなくてもオブザーバー参加でも良いから参加させてほしいと、毎年のように申請しても、中国がそれを拒否して台湾をWHOから除外している。このようなことは、大国の振る舞いとしても、ふさわしくないだろう。

  
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