中国人訪日客の春節需要の滑り出しが順調だったところに、とんだ冷水――。中国・武漢を〝震源〟とする新型肺炎は、世界的な広がりをみせ、中国での患者数は約7700人、死者170人(1月30日時点)確認されている。この動きに気を揉むのが、ほかならぬ国内の流通業界。中でも百貨店では、インバウンド(訪日外国人)の免税売上高構成比が全体の10%近くに達する企業もあり、先行きを注視する。新型肺炎にインバウンド頼みの流通業は試練の時を迎えている。
「1月2日から27日まで前年同期比で34%、1月28日の1日だけでも前年同日比で40・3%でした」。大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJフロントリテイリングではこう話す。
同社ではインバウンド、とくに中国人訪日客に人気の化粧品やラグジュアリーブランドを中心に売れ、前年同期を上回る順調な滑り出しを見せたという。
春節や国慶節などという節目に多くの中国人観光客が訪れる構図は今も変わりはないが、最近では、訪日客も平準化されているといい、かつての爆買いブームの時よりもメリハリはなくなっている。
それでも前年同期比で30%、40%と売上が伸びる好調さで、今年も期待できると踏んだ矢先、新型肺炎騒動が発生、百貨店関係者の肝を冷やした。何しろ、新型肺炎は日増しに患者数が増えていくばかりか、世界的な広がりをみせている。
SARSのときの中国人観光客は20分の1の規模
かつて2003年に発生したSARSサーズ(重症急性呼吸器症候群)の時と違って、世界を旅行するようになった中国人の19年の訪日客は前年比14.5%増の959万人、SARSが発生した03年は約45万人、19年の約20分の1の規模だから比べものにならない。
これだけ、中国人に押し寄せるのだから、その中国人が日本国内の経済に与える影響は大きい。なかでも中国人観光客の恩恵を受けているのは百貨店を始めとする流通業界だろう。
大手百貨店では免税売上高が全体の7、8%、店舗によっては店全体の売上高の8割を中国人訪日客を中心とした免税売上高が占めるというのだから、すっかりインバウンド頼みの経営に転換している。事態が長期化すれば業績に打撃を与えかねないのだ。
27日に中国政府がとった拡大防止策が、団体旅行の禁止、さらに個人客もパッケージツアーを利用しての渡航の自粛である。
この措置が長引くのか、それとも早期に解除されるのかは分からないが、流通業界では「(長引くようなら)一定の影響は避けられない」(高島屋)と危惧する。
ある百貨店関係者は「少なくても1月、2月は大手百貨店の売上高に影響するのではないか。感染がさらに拡大しているようならば、さらに3、4月への売上高への影響が尾を引く可能性も捨てきれない」と話す。
百貨店ばかりではなく、ドラッグストアも最近では中国人訪日客の立ち寄り先として定着している。免税店を約200店展開するココカラファインでは春節で訪れた中国人訪日客は中国国内でマスクの品切れ、品薄状態を反映して、「マスクの売上高は前年同期に比べ3倍以上の伸び」だという。
ディスカウントストアのドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも免税売上高の今期(21年6月期)見通しは700億円だ。
三越伊勢丹ホールディングスの760億円、マツモトキヨシホールディングスの715億円(全体に占める割合約13%)に次ぐ水準となっているなど、インバウンド、中国人訪日客の渡航自粛の影響を受けかねない流通業は少なくない。