WEDGE REPORT

2020年2月18日

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坂梨祥 (さかなし・さち)

日本エネルギー経済研究所 中東研究センター副センター長

1999年、英国ダーラム大学中東イスラム研究センター修士号取得。2000年、在イラン日本大使館専門調査員。05年に東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学、Gulf Research Center客員研究員を経て、19年より現職。

[著書]
イランのウラン濃縮を受け、国連制裁の再開に動き出す欧州 (GETTY IMAGES)

 しかし今回の選挙は、前回とは正反対の状況で、つまり米国が核合意から離脱して、イランを最強の制裁で苦しめているタイミングで行われる。16年の選挙では敗北を喫した保守強硬派勢力は今日、米国を信頼したのがそもそもの間違いであったというキャンペーンをはっている。米国を信頼すべきでないというその主張がどの程度の支持を集め得るかはさておき、対話路線を唱道していた改革派および保守穏健派が立候補そのものを認められなければ、選挙では必然的に、保守強硬派が勝利することになるだろう。

 立候補登録を行った候補者たちの資格審査を実施するのは、最高指導者が直接・間接に任命する監督者評議会(憲法擁護評議会とも護憲評議会とも訳される)と呼ばれる機関である。つまり立候補資格審査の結果には、最高指導者の意向が少なからず反映されると考えられる。

 16年の国会選挙で対話路線を掲げ当選した候補者たち(今日では現職議員)を、最高指導者が今回の選挙では失格としたい背景には、(最高指導者の目から見ると)繰り返しイランを裏切り、かつて対IS戦で「共闘」していたはずのソレイマニ司令官までをも切り捨てた米国への強い憤りがあるだろう。

 また、イランへの最大限の圧力を維持するトランプ政権の関係者が、イラン・イスラム共和国体制の「内側からの崩壊」に再三言及してきたことも、ハメネイ師の対米不信に拍車をかけていると考えられる。ハメネイ師から見ると、米国はイランの反米姿勢を許容せず、究極にはイランのレジーム・チェンジを目指し続けている。米国の経済制裁はイラン国民の不満を高め、国民を蜂起させ体制転覆を促すためのシナリオの一環なのである。

デモを断固鎮圧した理由

 イランの政府関係者からするとこのシナリオは、かつてシリアがたどった道を否応なく想起させるものである。国内で抗議行動が発生し、体制はその鎮圧を試みる。しかし周辺諸国から反体制派に資金や武器が流入し、抗議行動が長期化してついには内戦に転じる。その結果国土は荒廃し、領土の一体性すらおぼつかない状況が生まれる。イランの体制はおそらく、米国のそのようなシナリオを強く警戒し、昨年11月の抗議行動を断固鎮圧したのである。

 トランプ政権はありとあらゆる圧力を駆使してイラン側の「降伏」を迫っている。目に見える「最強の」経済制裁のみならず、抗議行動で出た死者数をめぐる情報戦や心理戦、イラン国内の反体制勢力への様々な支援等、米国による多種多様な介入が今日まで行われ続けてきたことに対し、イランの体制は疑心暗鬼を深めている。

 そのようななかで、ハメネイ最高指導者は来る国会選挙でさえも、国民は対米対峙で一致しているとのアピールに用いたい考えであるかもしれない。しかし、ともに一歩も引かないトランプ政権とイランの体制の間で板挟みになっているイラン国民の多くは、経済の改善を何よりも望みつつ、自らの一票を託す先を見つけられずにいるように見える。

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