WEDGE REPORT

2020年2月18日

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坂梨祥 (さかなし・さち)

日本エネルギー経済研究所 中東研究センター副センター長

1999年、英国ダーラム大学中東イスラム研究センター修士号取得。2000年、在イラン日本大使館専門調査員。05年に東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学、Gulf Research Center客員研究員を経て、19年より現職。

[著書]

 年明け1月3日のソレイマニ司令官の殺害は、このような状況のなかで起こった。イランの体制にとって、ソレイマニという有能な司令官の殺害は大きな打撃であった。しかし同時に、体制にとってこの事件は、得難いチャンスでもあった。ソレイマニ司令官はイラン国内で、「ISのイランへの侵入を防ぐべく」イラクやシリアでISと戦った英雄とみなされており、司令官の暗殺は、「米国の不正義」の前に国民を団結させる好機となり得たのである。イラン各地で営まれた司令官の盛大な葬儀には、合計で数百万人が参加したとされ、体制はその動員力が健在であることを、国内外にアピールすることができた。

 体制はソレイマニ司令官の出身地である南部ケルマーンで葬儀を行い、その日の深夜、イラクの米軍基地に対する報復ミサイル攻撃を実施し、その後夜明けがくる前に、司令官の遺体を同じくケルマーンの殉教者墓地に埋葬した。この報復攻撃で米軍側に死者は出ず、攻撃の応酬がここで止まっていたならば、イランは司令官殺害を機に、米国と何らかの取引を行うことすらできたかもしれない。

 しかし、イランが米軍からの報復攻撃を最大限警戒するなかで発生したウクライナ民間航空機の誤射は、そのような可能性を打ち砕いた。のみならず、体制がこの誤射の隠蔽を試みたことが明らかになると、国民は体制に対する不信感を改めて募らせ、都市部の主に学生たちの間では、体制に対する新たな抗議行動が発生した。つまり体制はあっという間に、内憂外患の現実に引き戻されたのである。

国会選挙後も対決姿勢は継続

 イランでは2月11日に革命41周年の記念日を迎え、2月21日には第11期国会選挙が予定されている。イランの選挙では体制が認めた者しか立候補することができず、国会の全290議席を最終的に何人の候補者が争うことになるかは本稿執筆時点(2月7日)で不明である。しかし、報道によると、改革派に属する議員の多くが早々に失格となっており、選挙は保守派(革命の「原理」に忠実な党派として「原理志向派」を名乗っている)内部の戦いとなる見通しが濃厚である。

 イランには全国規模の政党がなく、選挙は政党単位ではなく、候補者たちがグループごとにリストを作成するかたちで戦われる。前回16年の選挙では、ロウハニ大統領の対話路線を支持する改革派と保守派のなかでも穏健派と呼ばれる勢力が連合を組み、「希望のリスト」を作成し、首都テヘランでは圧勝を果たした。選挙は核合意に基づき制裁が解除された直後に行われ、ロウハニ大統領の対話路線を支持する人々の数が、対米懐疑派を上回ったのである。

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