2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月11日

 韓国の大統領府では最近、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄論が急速に再浮上しているらしい。中央日報の報道記事に沿ってその概要をご紹介すると、次の通りである。

Barks_japan/iStock / Getty Images Plus

⑴日本の輸出規制強化をめぐる日韓の協議につき3カ月間に亘り進展がない中で、青瓦台(大統領府)ではGSOMIA破棄論が再浮上している。

⑵米韓間で在韓米軍経費負担交渉に加えGSOMIAが問題になることにつき、外交部内には青瓦台の方針を懸念する向きもある昨年11月の韓国のGSOMIA終了中止宣言を事実上GSOMIA維持と受け取っている「米国を相手に行うべき外交的費用は相当なものになるだろう」との意見も部内にある。

⑶この問題が再燃すれば4月総選挙の核心争点になる。政府消息筋は「青瓦台内部でGSOMIA終了主張を主導しているグループは、外交安保および政務ラインの若手の参謀だと承知している」とし「4月の総選挙を控えているという点で、日本に対する強硬論に再び始動がかかる可能性がなくはない」と懸念した。

⑷関係者は「三一節(独立運動記念日)にどんな形になろうと対日メッセージが出てくる筈だが、遅くとも3月中にはGSOMIAを終了するかどうかを最終決定すべきだという雰囲気」と伝えた。

⑸野党は直ちに反発、自由韓国党の尹国会外交統一委員長は「GSOMIAは条件付きで延長し、首脳会談もし、局長級対話も進められているところなのに、破棄するというのは何か政治的目的があるとしか考えられない」と批判、「支持層結集のためだとみられる」と付け加えた。

⑹日本は昨年12月、首脳会談開催直前に「フォトレジスト」に限定して輸出手続きを一部緩和した。同月東京で開かれた産業当局間の局長級政策対話の時、「近いうちにソウルで追加で開こう」と合意した政策対話はまだ開催されないでいる。

 2月13日付けの中央日報社説は、GSOMIA破棄論について、「最も懸念するのは、韓国がGSOMIAを破棄した時の米の反応だ」、「GSOMIAを廃棄すれば、韓国の安全保障に大きな穴が開く。日本は情報衛星、イージス艦、地上レーダー、早期警戒機などの先進的な軍事資産を持っている。韓国がGSOMIAを廃棄する理屈は全くない。反日感情を焚き付け4月の選挙を有利に進めることを狙っているのであれば、それは間違った選択だ」などと、厳しく非難している。しかし、残念ながら、そうした正論が強まっているとか、青瓦台が耳を傾けているとかいうことではない。

 破棄強硬論は、青瓦台の外交・安保・政治の若手参謀が主張している。昨年GSOMIA破棄を推進した金鉉宗(安保室次長)等が再び推進しているのであろう。対米、対日関係、安保などを過小評価する懲りない考えという他ない。韓国は日韓関係の政治利用からなかなか抜け出せない。金鉉宗は今月上旬訪米、大統領府とも在韓米軍経費負担交渉の他、GSOMIAについても議論したと言われる。なお金鉉宗は帰国後、日を置かず訪ロした。

 康京和(外交部長官)は2月6日の記者会見で昨年の廃棄中止措置は「暫定的な措置」であり、「我々はいつでも終了効果を再稼働でき、基本的に韓国の国益に基づいて行使する」と説明した。2月15日にドイツで行われた日韓外相会談でも韓国側は輸出規制問題を提起、主張した。なお洪楠基(経済副首相兼企画財政部長官)はその後「不確実性を取り払う最善の策は、日本政府が(強化した)規制を元に戻すこと」だと関係閣僚会議で発言した。

 米国のハリス駐韓大使は2月11日、インタビューでの質問に答えて「米国はGSOMIAは重要という立場」だと述べている。

 韓国政府は未だ問題の核心を見ることを拒んでいる。現下の問題の本質を理解し、徴用工問題について、きちっと解決を図るべきである。対韓輸出問題は、GSOMIAとは別の方法で日韓関係全体の中の問題として解決すべきだ。韓国がそこまで理解しない限り、今回ばかりは両国関係はなかなか改善できそうにない。

  
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