定年バックパッカー海外放浪記

2020年4月26日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2019.6.5~7.22 48日間 総費用24万円〈航空券含む〉)

 7月3日、ブダペスト観光五日目。手作りブランチをして、自転車で市内観光に出かけようとホステルの門を出た。隣のオープンカフェを通り過ぎようとして急ブレーキ。

 綺麗な東洋系女子が一人でテーブルに座って視線がこちらを向いているではないか。ハンガリーの民族衣装のような服が似合っている。

 瞬間的に韓国女子と推定し「アニョセヨ」と挨拶するとキョトン顔。すかさず「ニーハオ」と呼び掛けると微笑みが。瞬時に中国語会話モードに変換。彼女は“四川省成都出身の中国女子で英国留学中”であった。

1分間で人間は相手を判断する

 こうして東洋系美人のバックグランドを1分で聴取。一見して興味のある人間に遭遇したら、1分以内に相手の素性を把握して同時に自分の素性(日本人、年金生活者、自転車で欧州縦断中など)を相手に伝えることは海外放浪では不可欠である。

 最初の1分で人間関係は決まる。1分間でお互いに親しくするべきか否か判断するのだ。最初の1分でOKと判断した相手であれば何時間でも楽しく有益な交流(communication)ができるというのがオジサンの鉄板法則である。

 当然相手も1分でオジサンのことを判断(judge)するので、真剣勝負だ。アメリカのセールスマンはエレベーターで出会った初対面の潜在顧客に対してエレベーターから降りるまでに自分を知って興味を持ってもらう“売り込み”(sales pitch)をする。エレベーターでの売り込み(elevator pitch)と同じだ。

 彼女はシェリーと名乗った。一緒にカフェでおしゃべりすることに。彼女は食後のデザートを、オジサンはクラフトビールをオーダー。

お洒落な中国女子シェリーとオジサン

 シェリーは中国の大学卒業後に留学してスコットランドの大学の修士課程で児童心理学を勉強。今年卒業するので夏休みを利用して中欧巡りをしていたのだ。

 大学卒業後就職せずに直接留学したということは親が留学資金を負担している。富裕層か分からないが、少なくともシェリーは経済的に恵まれた家庭環境で育ったようだ。四川省の成都は人口1600万人の大都市であり北京や上海に次ぐ高所得水準である。

 シェリーと話しているとなぜか心が和んだ。恵まれた環境で素直に育ったお嬢さん。民族衣装風の服を褒めると、シェリーはいつも旅先に相応しい服を何着か選んで持ってくるというお洒落さんだ。

 シェリーは児童心理学修士号を取得して帰国するが、就職先を具体的に検討していない。子供の教育や福祉に関わる仕事、つまり学校か政府機関で働くという漠然とした将来設計だ。一昔前の中国人留学生は外国人に負けないよう対等に討論しようと身構えるタイプが多かったことを思い出した。

シェリーの考え方や生き方が同世代の日本のフツウの女の子と変わらないように思えた。経済発展により中国の富裕層は日本の総人口を越えたと言われているが、シェリーのようなフツウの女の子が増えているのだろうか。

ロシア人とハッピーアワー

 7月3日、シェリーと別れてからブダ地区の王宮の丘を散策。午後6時頃ゲストハウスに戻った。

 ぼんやり夕空を眺めていたら、欧米女子が部屋に入ってきて隣のベッドで荷物を解き始めた。ロシアのサンクト・ペテルスブルグ在住のバイオ専攻の大学生でイリーナと名乗った。

ロシア娘イリーナとオジサンのハッピーアワー

 挨拶が終わったらイリーナはザックからビールを取り出して、一緒に飲まないかとナイスなオファー。オジサンも冷蔵庫に数本冷やしてあるのでレーベンブロイのロング缶を持って来た。

 イリーナは夏休みを利用してヨーロッパを旅行しているバックパッカー女子。こうしてロシア娘と至福のビールタイムを過ごした。

 7月6日夕刻、ハンガリー北西端のエステルゴム郊外。ドナウ川の河川敷にはサイクリングロードが整備されており広大な公園になっている。午後6時、河畔の東屋にテントを設営。

 雲行きが怪しく落日の太陽が侘しい。時刻は8時過ぎ。夕闇のサイクリングロードを歩いて来た少女が東屋に近づいてきた。

 亜麻色の長い髪の少女は整った顔立ちをしており、清楚なワンピースにサンダルを履いていた。年のころは17~18歳くらいであろうか。うつむいて歩いている面影は蒼白だ。

 彼女が歩いている小径は15メートルも行くとドナウ川の岸辺で行き止まりだ。不審に思って「ハロー」と声を掛けたが反応がない。

 心配になり赤ワインをチビチビやりながら少女が戻って来るのを待った。次第に風雨が激しくなってきたが少女は戻ってこなかった。

 “亜麻色の髪の乙女”はドナウの流れに消えてしまったのだろうか。

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