2024年4月25日(木)

古希バックパッカー海外放浪記

2020年4月12日

(2019.6.5~7.22 48日間 総費用24万円〈航空券含む〉)

スロベニアの古都リュブリャーナ、“浪漫的叙情之一晩”

夕暮れ時のリュブリャナ旧市街

 6月19日夕刻、シャワーを浴びて、ワインと食べ物を調達してホステルのテラスで夕食。トワイライトの古都を散策していたら、ライトアップされた大聖堂を背景にスマホで自撮りしている女子に遭遇。英国留学中の中国女性だった。意気投合してカフェでビールを飲むことに。

 ウェンは上海出身の28歳。大学卒業時は就職難。結局韓国のアパレルメーカーに就職。ちなみに中国では外資系では欧米企業が一番人気。次が少し落ちて日本企業。一般に韓国企業は人気がないらしい。

 韓国人駐在員は礼節がなく(没有礼貌)、行いが粗暴(態度粗野)、公徳心に欠ける(没有文明精神)と手厳しい。そしてセクハラ、パワハラは日常茶飯事。それでも給料がまあまあの水準(収入水平環可以)だったので、我慢して6年近く勤務した。

 ウェンはキャリアアップして人生をやり直すために退職。貯金を下ろしてロンドンに留学。9月に卒業して経営財務の修士号を取得予定だ。

 ウェンはロンドンで2年学んで中国に疑問を抱くようになった。中国社会はエリート共産党員やお金持ちの特権階級が支配している。フツウの庶民は激烈な競争の中で勝ち抜いて這い上がるしか道がない。

 ウェンには不公平な社会構造で競争プレッシャーの下で生きる人生は受け入れ難い。海外移住も考えており、両親も海外移住には反対していないという。故郷を捨てることがフツウに人生の選択肢となってしまうのが中国社会の悲しい現実なのだろうか。

 ウェンと議論に熱中していたら、カフェのウェイターが来て「看板だ」(close)と合図。11時過ぎだ。ホテルまで彼女を送った。「グッナイ!」と握手したら、ウェンは「後で読んで」とカードに書かれたメモを差し出した。

 一人ホステルにもどる道すがら、リュブリャ二ツァ川の川面に映る街の灯がロマンチックに煌めいていた。『今晩は有益なお話を有難うございました。私にとって生涯忘れ難い夕べになりました。良い旅を』と英語で書かれていた。

 酔っぱらいのオジサンの与太話に長々と真面目に付き合ってくれたことに恐縮至極。

上海娘のウェンと年金生活者のオジサン

公園での歓待は悪夢の序曲

 6月20日、サヴァ川沿いに一路東進。午前中は夢のような好天、午後は青天の霹靂。土砂降りの雷雨のなか午後5時過ぎLitijという平凡な田舎町に到着。

 集合住宅に囲まれた中庭に公園があった。雨上がりの公園では子供たちが遊び保護者たちもおしゃべりに興じていた。

 日本人がキャンプするというので興味津々大騒ぎ。缶詰、果物、お菓子、ジュースなど次々と差入を持ってくる。

 赤ワインで酩酊して9時過ぎに寝袋にもぐり込んだ。

 午後11時過ぎ 酔っ払いの声で目が覚めた。酔っぱらいが突然テントの入口のジッパーを乱暴に開けた。一気にアドレナリン全開。

 数カ国語で日本人だと言ったら酔っ払いは理解した様子。ぶつぶつ独り言を呟きながら去って行った。

 11時半頃 ウトウトしていると再び酔っ払いが歩いてくる気配。息を殺して通り過ぎるのを待っていると、いきなりテントをぐらぐら揺らした。

 酔っ払いは懐中電灯でオジサンの顔を照らし日本人と分かると「オーケー、オーケー」と言いながら帰った。

 午前0時 やっと寝付いたと思ったら話声で目が覚めた。急いで半身をテントから出して、数か国語で「日本人だ」と答えると「日本人は友達」と片言の英語で握手してきた。

 酔っ払いたちが何を問題にしているのか分かった。違法外国人移民がテントで寝ているのではと疑っていたのだ。

 午前1時頃、「警察だ」(ポリス)という声で目が覚めた。深夜に「警察だ」と脅かす悪戯は何度か経験していたので、警戒してテントを開けると制服警官が3人。

 パスポートを提示すると無線で本部にパスポート記載事項を照会して一段落。

 断続的に小雨が降っていた。一番若い警官がオジサンと話して要点を隊長に報告。隊長の指示は「住民から不審者がいると通報があった。荷物をまとめて30分以内に移動せよ」とそっけない。

 「雨中の深夜にどこへ行けばいいのか」と反論すると、「森の中なら誰もいない」と。「誰もいないところで襲われたら危険だ。鉄道駅か公民館ではどうか」と聞くと、「住民から通報が来るのでダメ」とすげない。

 「警察署の留置場はどうか」と食い下がると「30分後に巡回に来る。公園は集合住宅の私有地である。それまで公園を退去しない場合には罰金チケットを交付する」と最後通告。

サヴァ川の要衝の丘の上の城

巨漢と深夜の対決

 警察と問答しているあいだ一人の酔っ払いが木陰から様子を伺っていた。パトカーが引き揚げると酔漢は周囲を伺いながらテントに近づいてきた。

 酔漢はテントの中に手を突っ込んだ。間髪を入れず思いっきり常時携帯しているホイッスルを吹いた。公園中に鋭い音が響き渡った。

 酔漢はこちらに向かってきた。年齢は30過ぎ、身長190センチ体重120キロくらいの巨漢だ。対するオジサンは身長170センチ、体重56キロと虚弱体質。巨漢に組みつかれたら万事休すだ。

 周辺の集合住宅の電灯がどんどん点灯した。一進一退の睨み合いをして時間を稼いでいると午前2時にパトカー到着。

 逃げようとする巨漢を警官が2人がかりで拘束。若い警官がオジサンに被害状況や経緯をヒアリング。

 救急車も到着。救急隊長のドクターが流暢な英語でオジサンにケガはないか確認。救命救急チームはドクター、看護師、ドライバーのイケメン3人組でキビキビと頼もしい。

 「安全な場所で夜明けまで休みたい。病院の休憩室や待合室はどうか」とハンサムなドクターにやんわりと打診した。ドクターはニヤッと笑って「休憩室・待合室は夜間立入禁止だ。でも予備手術室なら空いているよ」とナイスな回答。

 午前3時 救急車に折り畳み自転車と荷物を載せて公立病院に到着。こうしてERの手術台でやっと眠りに落ちた。


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