その理由は、実際に承認された際の厚生労働省の「薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会」の2014 年 2 月 3 日の議事録を読めばわかりますが(審議会名と日付で検索してみてください)、添付文書の一番最後の「承認条件」の欄にも以下の記載があります。
- 医薬品リスク管理計画【筆者注:「RMP」と呼ばれています。「アビガン_RMP」で検索してみてください。】を策定の上、適切に実施すること。
- 本剤の使用実態下における有効性及び安全性について十分な検討が必要であることから、適切な製造販売後調査等を実施すること。
- 厚生労働大臣の要請がない限りは、製造販売を行わないこと。
- 製造販売する際には、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施すること。
- 本剤の投与が適切と判断される症例のみを対象に、あらかじめ患者又はその家族に有効性及び危険性が文書をもって説明され、文書による同意を得てから初めて投与されるよう、厳格かつ適正な措置を講じること。
つまり、既知のインフルエンザの治療薬としては、既存の薬以上の有効性はなく、毒性などの副作用も強いので使用しない。ただし、未知の新型インフルエンザのようなものが現れたときには効くかもしれないから、ということで、承認されたものなのです。だから、これまで一般には使用されてきませんでした。
ただ、今回は新型コロナウィルスだったので、インフルエンザウィルスとは症状は似ていてもウィルスが違うので適応外使用となるために、新たな臨床試験が必要とされています。
臨床試験では、避妊期間は男女とも90日間
その「アビガンの臨床試験」に関しても、様々な二次情報、三次情
「臨床研究情報ポータルサイト」(https://rctportal.niph.go.jp/)
このトップページの少し下の方に、「フリーワード検索」の窓がありますので、そこで「アビガン」と入力して検索すると、アビガンに関する臨床研究の一覧が出てきます。
この内、登録日が2020年3月27日になっているものが企業が実施している臨床研究、3月2日になっているものが、藤田医科大学が実施しているものです。
本稿では紙幅の関係で、臨床試験の詳細についての論評はしませんが、藤田医科大学が実施している研究の詳細を見ると、避妊期間が、添付文書に記載されている「投与終了後7日間」ではなく、男女とも「投与終了後90日間」となっています。これはおそらく、臨床試験で使用する用量が、添付文書よりも多いからだと考えられますが、承認後、実際に使用された経験のない薬であるだけに、心配は尽きません。
新型コロナウィルスへの不安が高まる中、「効くかもしれない」アビガンに期待が集まる気持ちも理解できます。(ただ、一般に「飲んだら治った」というだけでは効いた証拠にはなりません。たまたま雨が降る直前に雨乞いをした人の「雨乞いが効いた」ということと同じかもしれないからです。なので、科学的な臨床試験が必要です。)しかしこの薬は、安易に、日本中、世界中の多くの人に飲ませるべき薬ではないことが、添付文書を見ればわかります。
妊娠している人や、胎児、幼児にとっては、アビガンは薬ではなく毒と呼ぶべきかもしれません。全ての薬に副作用がありますが、それでも使用する理由は、それ以上の効果が期待できるような病状があるからです。
薬の効き目や副作用には個人差もあります。それぞれの患者の状況に応じて、薬になるか毒になるかを一人ひとり慎重に見極めながら投与されなければいけない薬だと思います。
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