トランプ政権との間に隙間風
もう1つサウジが懸念しているのはトランプ政権との間に隙間風が吹き始めたことだろう。トランプ大統領はムハンマド皇太子がロシアとの石油価格戦争を仕掛け、価格を押し下げたことを快く思っていない。なぜなら、価格が低下したことで、米国のシェール石油産業が大きな打撃を被っているからだ。
米紙によると、トランプ政権が近く、サウジに配備している地対空ミサイル「パトリオット」を撤収し、イランとの軍事的緊張でペルシャ湾に増強した戦力を削減することを検討しているという。サウジはこの米軍の縮小に備え、パトリオットの改造型PAC3を東部の石油地帯などに配備する準備を進めている。
しかし、サウジの指導部には、中東からの撤退を急ぐ米国が最終的にはサウジを見捨てるのではないかとの懸念も再び出始めているようだ。とりわけ11月の米大統領選挙でトランプ大統領が敗れ、バイデン新大統領が誕生することにでもなれば、そうした懸念は一段と高まるだろう。バイデン氏はサウジが嫌悪するオバマ前大統領の副大統領を務めていた人物だからだ。
「戦争に勝てないなら、友人になるしかない」(専門家)。すでにサウジの隣国の盟友、アラブ首長国連邦(UAE)は「イランとの対決から融和」に舵を切った。ムハンマド皇太子も大きな戦略転換を迫られている。コロナパンデミックは中東の相関図を変えようとしている。
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