中国の医師は大学の医学部卒業者だけではなく、農村部では、中学・高校卒業後に一定期間の実務を経て、資格を取得した者も多く、医師の質の向上が課題だ。
厚生労働省の「10~11海外情勢報告」によると、中国の10年末の1000人当たりのベッド数は3.56床と日本の約4分の1。
薬漬け・検査漬け
はびこる営利主義
社会主義の中国ではかつて病院も大学医学部も国公立だけだった。今もなお私立の病院や医院、診療所、私立大学医学部は歴史が浅く、国公立の病院や医師養成機関の不足を補う力を備えていない。
第二の問題として、市場経済化に伴う医療制度改革の弊害が挙げられる。改革・開放政策の中で、国立、公立の病院も独立採算性に移行したが、薬漬け・検査漬けで稼ごうとする営利主義がはびこる。医療費を払えない患者は診察、治療しようとしない。
中国在住の日本人が交通事故に遭って救急車で病院に運ばれたが、一定額の現金を見せて支払い能力を証明するまでは治療は始められないといわれたこともある。
健康保険はかなり普及したが、自己負担分が多く、保険適用外の手術費や薬代にはかなり高額の出費を強いられる。ドラマ「心術」の中でも、悪性脳腫瘍の摘出手術に約6万元(約78万円)=都市の給与生活者の年収に相当=かかるといわれ、患者の方が手術をとりやめる場面があった。
不公正な医療現場
第三に医療の現場の不公正さである。医師の給与がさほどよくないこともあって、手術などの際に患者から医師に「紅包」(リベート)を贈るのは、決して珍しいことではない。中国全体が伝統的にコネとリベートの世界。治療や手術、臓器移植の順番についてもこの二つがものをいう。
医療水準についても、都市と農村の格差は大きい。家や家財を売って金をつくり、何日もバスや列車に乗って、やっとの思いで都市の総合病院に診察を受けに来る農民もいる。やっとの思いでたどりついた病院で不公正な扱いを受け、十分な治療が受けられなければ、キレるのも無理はない。
格差社会への不満
「良い治療を受けられるのは、勝ち組だけ」
中国指導部は「和諧社会」(調和した社会)づくりを目標に掲げているが、実際には貧富の格差は広がる一方であり、「格差社会」「不平等社会」の様相を強める。