ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2020年7月28日

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牧野健太郎(読み解き) (まきの けんたろう)

ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

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近藤俊子(構成/文) (こんどう としこ)

編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

[執筆記事]

髪を上げて浴衣をはおり …… 何気ない湯上がりの1コマです。歌麿さんの美人画には、色っぽさと清涼感が同居します。歌麿ワールドの仕掛けは、一体どこに潜んでいるのでしょうか。

喜多川歌麿「娘日時計 午ノ刻」

シースルー越しの二の腕が
可憐な湯上がり美人

左:(2)、右:(1) 

 お江戸で美人画といえば、この方、喜多川歌麿さん。その歌麿さんが若い娘さんの生活を写して描いた「娘日時計」5枚シリーズの中の1枚「娘日時計 午(うま)ノ刻(こく)」は、1794~95年(寛政6~7年)頃の作品(1)(2)。午ノ刻とは正午12時を中心とする2時間くらいの時間帯で、正午を境に「午前」と「午後」というように今も使われています。

 濡れた襟足を拭う姿も艶(つや)っぽい、まだ陽の高いお昼の湯上がりです。右側のお方は、何気なく手拭いを絞る、その白い二の腕が、浴衣を通して透けて見えます。シースルーの薄衣には雪輪の文様「六花(りっか)」*1、しかも雪の結晶をよく見ると6角形ではなく、5角形。歌麿さんは六花をさりげなくデザインして形を変え、白い二の腕に重ねて描いておいでです(3)。顕微鏡を覗いたのか、雪が淡く解ける一瞬を、浴衣に写して涼しげです。このお嬢さんの髪型は、庭の燈籠に似せた「燈籠鬢(とうろうびん)」、髷は「勝山髷(かつやままげ)」(4)。お風呂上がり、櫛を前髪に挿し、髪型が崩れないよう紐で括っています。かわいい唇でくわえているのはぬか袋で、歌舞伎の大名跡、市川團十郎の定紋(じょうもん)、三升紋(みますもん)のブランドロゴ入り(5)。「成田屋~!」。米ぬかは、美容効果抜群といわれるビタミンB群、ビタミンEがたっぷり。ぬか袋は、当時のお江戸では女性のお風呂には欠かせない美容用品のひとつでした。

右:(3)、左上:(4)、左下:(5

*1 雪の異称。顕微鏡で見ると、雪の結晶が6角形であることから、そう呼ばれる

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