材木置き場の間に富士山が見える「本所立川」。北斎さんは、この作品に洒落心と遊び心、職人魂を描きました。見えるものと見えないもの……それらは一体何でしょうか?
立川、堅川、縦の線……
喜びとともにお江戸の時間を止めた北斎さん
葛飾北斎さんの代表作「冨嶽三十六景」は大当たり、36枚の予定が追加されて46枚シリーズとなりました。追加の最初の1枚がこの「本所立川(ほんじょたてがわ)」、1831年(天保2年)頃の作品です(1)。ここは大川、今の隅田川に流れ込む「本所の立川」の材木置き場。「本所」は現在の墨田区両国付近で、立川は堅川、縦に流れる川の意です。現代の一般的な地図では北が上なので、東西を走る川は横(左右)に、南北を走る川は縦(上下)になりますが、お城から眺めると流れが縦に見えるので、たて川(流れが横に見えて横川)です。
材木の間に富士山が見えます(2)。火事の多かったお江戸の町、有力大店(おおだな)では、再建用の材木を大川の東側に備蓄していました(3)。こちらはその大店の立派な材木置き場です。入口の看板には「西村置場」、その右にはご丁寧にお店のご住所「馬喰丁弐丁目角」(4)。そして「永寿堂仕入」、さらに「新版三拾六不二仕入」(5)とあり、北斎さんの洒落心、版元(西村永寿堂)ヨイショに、追加新作の宣伝もしっかりと。さすがの天才、北斎さんも大ヒットして、さらに追加10枚の喜びを表現したかったのかもしれません。