世界で愛されている旅立ちの浮世絵といえば、歌川広重さんの出世作の「日本橋」です。この作品から読み取れる、今日にも通じる社会目標とは?
経済活動、エネルギー活用、食生活…… お江戸のSDGs(エスディージーズ)事情※1
歌川広重さんがベストセラーシリーズの1作目、この「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」(1)(2)を描いたのは1833年(天保4年)頃。最初は「竹孫・鶴喜※2」(2)の共同出版でしたが、その後、保永堂(ほえいどう)が版権を独占したといわれています。
お江戸で朝の景といえば、日の出前のこと。まだ明けやらぬほの暗い空の日本橋(今の中央区日本橋)を描いた作品です。手前は京橋側、橋の向こうの左に「日本橋三越」があり、火の見櫓(やぐら)が見える左側は「コレド室町」が建つ辺り、今でも東京の真ん中です。日本橋は江戸時代の五街道の起点、そして今では「日本国道路元標(げんぴょう)※3」が橋の中央に埋め込まれています。また、欄干の擬宝珠(ぎぼし)は幕府が架けた大事なご普請橋の証で、日本橋、京橋、のちの新橋の3カ所だけに設置された装飾です(3)。
太陽のエネルギーを最大活用とばかりに、まだ薄暗い日本橋から参勤交代の大名行列のスタート(4)。毛槍2本から察するに、この行列のお殿様は3万石以上、少なく見ても200人以上の藩士が後を歩いていたと思われます。
※1 Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。2015年、国連サミットで決められた国際社会共通の目標
※2 小さな保永堂の竹内孫八さんと大手の仙鶴堂の鶴屋喜右衛門さんの頭文字
※3 道路の起終点を示す標識のこと。江戸時代は参勤交代によって経済活動、文化交流ともに活発になった